社員第一、仰天の熱血経営

(1)従業員の60%が「わけあり社員」

日本の企業の障害者雇用率は毎年上がっているが、まだ1.92%(厚生労働省「平成28年障害者雇用状況の集計結果」)にとどまる。就労困難な社会的弱者を支援するNPO法人Future Dream Achievement(FDA)は障害者以外にも、ニート、引きこもり、高齢者、LGBT、アルコールや薬物中毒者、外国人など、30種類の就労困難者をカテゴライズして「30大雇用」と定義している。一般企業ではマイノリティだが、「うちは従業員の60%が30大雇用の人たちです」と齋藤社長は言う。施設外就労の障害者12人を含めると、従業員62人のうち67%にあたる42人が“わけあり社員”ということになる(2017年8月1日現在)。

「タイヤのドライブスルー買い取り」受付もある。

そうした“わけあり社員”は、多くが複雑な過去を背負っている。DVを受け児童養護施設で育った青年。若年者支援機構から紹介された引きこもり。薬物中毒更生施設ダルクの出身者。経営する板金店が倒産し、うつ病になり家族と別れ自殺まで考えた中年男性。79歳と78歳のシニア社員。自閉症スペクトラムの知的障害者。視覚障害4級ながら、同社のファンになり入社を熱望した女性。就労はかなり困難だとされる障害1級もいる。さらに、ベトナム人の技能実習生……。

ふつうなら、なかなか働き口が見つからないような人たちが、ともに働いている。能力的に仕事ができないようであっても、彼らにできることを根気強く探り出し、仕事を教え、役目を与えてきた。

彼らを動機付け、精神面で支えるのは、専務である妻の奈津美さんの役目だ。引きこもりの青年を採用したときは、これまでどんな生い立ちだったか、今どんな気持ちかをまず聞いた。青年は「人に感謝できることなんてない」と、かたくなに心を閉ざしていたが、時間をかけて耳を傾けると、「前の職場で上司から理不尽に怒られたときに、身代わりになってかばってくれた先輩がいて、その人には感謝しています」とぽつり。まだ希望はあった。「なんとかしてこの子の面倒を見なくてはならないと思いました」(奈津美さん)。

現在までに採用から1年2カ月がたった。実は入社3カ月後には1週間の無断欠勤があった。奈津美さんはアパートのドアをたたいて「何しているの? ごはん食べたの?」と問いかけ、職場に引っ張り出したという。そんなことの繰り返しで、最近では仕事や仲間との関わりにも前向きになってきたそうだ。

養護施設出身という別の青年は、付き合っていた彼女に給料を搾取されて4日間も食事をとっていないとわかった。奈津美さんは彼を守るために給料の管理をし、彼女と直談判して別れさせ、目の前でLINEの連絡先も削除させた。ときに奈津美さんは社員間のトラブルも仲裁し、それぞれの悩みを受け止める。相手の心によりそい、物心両面で支える姿は家族以上にみえる。

(2)技能実習生のために現地法人設立を準備

同社では6人のベトナム人技能実習生がタイヤ・ホイール修理の現場で働いている。技能実習は、母国にない技術を日本で勉強して持ち帰るのが目的だ。しかし日本の現場労働力不足を補うため、低賃金で、時間を超えて働かせる職場が後を絶たない。

「それは悲しいですよ。本来あるべき技能実習生の教育をやりたいと僕は思っています。彼らが国に帰った後、技術・知識・経験に加えて日本の道徳を広げていくようでなければ」(齋藤社長)

齋藤社長は、技能実習生を社員旅行へ連れていき、食事会にもひんぱんに招いているという。ベトナムには、まだアルミホイールの修理や塗装業は少ない。齋藤社長は彼らのためにその拠点を作ろうと、来年春をめどにベトナム進出を計画しているという。