個人間の場合、反論によって得られるものは少ない。そこで意外と有力な選択肢となるのが、(2)「無視」である。
「何かを暴露する投稿がされたとしても、相談者が感じているほど、その書き込みが目立たず、それ以上書き込みがないケースというのはよくあります。当事者としては、何か対応せずにいられない気持ちになるのは当然でしょうが、もしそれがいくつもの検索ワードを組み合わせなければたどり着けないネットの深部に書き込まれたものなら、無視して風化させてしまうほうが得策とも言えます。行動を起こしたときに、新たな書き込みを誘発するリスクやかかる手間やコストと、天秤にかけて考えるべきでしょう」(神田芳明弁護士)
すぐにでも行動を起こしたい焦りはあるが、そんなときこそ、冷静になることが大事なのだ。
もし反論でも無視でも事態の収束が見込めないという結論に至った場合は、(3)「削除」以降の選択肢がクローズアップされることになる。ここからは法的対応となるが、改めて考慮すべきポイントが3つある。
「まず、書かれているのは本当にその人のことなんですか? という点。これを専門用語で『同定可能性』と言いますが、問題の書き込みによって企業や個人をどこまで特定しうるものなのか、その可能性を考えます」
ネットの書き込みは、伏字やイニシャルにしてあったり、名前が書いていないケースも多い。たとえ名前が明記されていても、それだけでは特定できないこともある。勤務場所、生年月日など、そのほかさまざまな情報があって『どう考えてもその人』ということが言えるなら、話が前に進む。自分では明らかに自分のことが書かれていると確信していても、第三者が見て認識できるとは限らないのだ。
次に、「権利侵害の有無」。書き込みが相談者のどんな権利をどの程度侵害しているのかを検証する必要がある。
「相談で一番多いのが名誉毀損ですが、自分にとっては腹立たしい言葉でも、それが本当に権利侵害に当たるかどうかは判断が難しい場合もあります。基本的には、その人や企業の社会的評価を低下させると認められれば名誉毀損ですが、それが単なる評価や意見で、『事実』が示されていない場合は、名誉毀損の問題ではありません」
たとえば、食べログに「この店はおいしくない」と書くのは、あくまで個人の意見なので名誉毀損には当たらない。料理に対する正当な批評は社会通念上認められるべきだからだ。「和牛だと偽ってオーストラリアの三流の肉を出しているから、おいしくない」と書けば、意見の前提として事実を示しているので、名誉毀損の可能性がある。
もうひとつ気にしないといけないのが、「炎上の可能性」。法的対応を進めたときに、相手がそれを知ることで、被害が大きくなってしまう可能性がないか。
「書き込んだ相手に構ってもらいたいという願望でやっている場合は要注意。こちらが何らかの対応をすることで『構ってくれた、よし頑張ろう』と、一層燃え上がることもあるんです」
相手の性質によって、どの程度被害が拡大する見込みがあるのかを見極める必要があるのだ。