適温相場とは、世界的に金融緩和と緩やかな景気回復が併存することで、相場が熱すぎる(強気すぎる)こともなく、冷たすぎる(弱気すぎる)こともない、適温の状態にあることをいう。

次の追加利上げは2018年3月まで先送り

2008年秋のリーマン・ショックを機に、世界的な金融危機が発生し、多くの国で金融システムが機能不全に陥った。これに対し、主要中央銀行は国債の買い入れを含む、いわゆる非伝統的な金融政策を通じ、市場に巨額の流動性を供給して事態の収拾に努めた。その結果、金融システムは正常化し、世界経済も落ち着きを取り戻すに至った。しかしながら、今日まで市場に過剰流動性は残り、世界的に低金利環境は続いている。このような状況が適温相場を生み、リスク許容度を高めた投資マネーは、一部に利回りを追求する動きや、追加的なリスクをとって新興国市場に向かう動きもみられている。

適温相場を形成する2つの条件は、「金融緩和」と「緩やかな景気回復」である。FRBやECBによる一段の緩和解除は、1つめの条件を弱めることになるため、市場で適温相場の終了が意識され、投資マネーのリスク許容度は低下しやすくなる。

しかしながら、ここで重要なのは緩和解除のペースである。弊社では、FRBのバランスシート縮小開始は2017年12月に通知され、次の追加利上げは2018年3月まで先送りされると予想している。またECBによるテーパリングは、2017年9月に通知、2018年1月に開始、同年9月には終了とみている。さらにECBの利上げ時期は、政策金利の下限となる中銀預金金利が早くても2018年12月、主要政策金利であるリファイナンス金利は2019年以降になると考えている。

このように、FRBやECBは、市場の反応を見極めつつ、慎重かつ緩やかなペースで緩和解除を進めると思われ、結果的に、FRBによるバランスシートの縮小が始まっても、市場の大きな混乱は回避される可能性が高いと思われる。

カギを握る米国やユーロ圏の経済指標

一方、2つめの条件である、緩やかな景気回復は、今後発表される米国やユーロ圏の経済指標がカギを握る。物価の伸び悩みなど、さえない経済指標の発表が続けば、この条件は弱まってしまう。市場では適温相場の終了が意識され、やはり投資マネーのリスク許容度は低下やすくなる。

逆に物価の急騰など、強すぎる経済指標の発表が続いた場合、欧米市場では利上げの織り込みが一気に進み、国債利回りの急騰が株価の下落を促し、この動きが他の国や地域に波及する恐れもある。ただ、足元の欧米景気の勢い(モメンタム)をみる限り、ここから景気が急速に過熱していくリスクは小さいとみている。

現時点で、市場にとって最も好ましいシナリオは、米国やユーロ圏で経済指標の改善と物価の持ち直しがゆっくりと進み、FRBやECBの緩和解除が極めて緩やかなペースで行われることである。この場合、適温相場を形成する2つの条件(金融緩和と緩やかな景気回復)が大きく崩れることはなく、投資マネーの流れが急変するリスクは限定的と思われる。

円相場と日本株の動きは?

最後に、最も好ましいシナリオの下で、円相場と日本株の動きを考えてみたい。弊社は、日銀が当面、現行の緩和政策を維持する一方、FRBはバランスシートの縮小を含む緩和の解除を慎重に進めると予想している。日米金融政策の方向性の違いを踏まえれば、ドル円相場は年末にかけて、ドル高・円安に振れやすい展開が見込まれる。

ただ、その動きは比較的緩やかなものにとどまり、現時点では1ドル=120円を超えるほどの勢いはないとみている。また、日本株については、適温相場の漸進的な修正、国内経済と企業業績の底堅さ、為替のドル高・円安方向の推移、これらの要素が、年末にかけて日本株の追い風になると考えている。

市川雅浩
三井住友アセットマネジメント シニアストラテジスト。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。著書に『為替相場の分析手法』(東洋経済新報社)など。CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。マーケットレポート(http://www.smam-jp.com/market/report/
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