幼少期の体験とコンプレックス

自分の内面にコントロールできない部分をいくつも複雑に潜ませてしまうコンプレックスとは、どのようにつくられるのでしょうか。

そのほとんどは、幼少期の体験の中でつくられると考えられています。幼少期、必然的に親かきょうだいなど身近な家族との関係は、時間的にも空間的にも濃密です。その中での辛い出来事や印象的な体験は、歳をとるとともに忘れていくように感じますが、実は自分の奥深くに追いやられているだけで、無意識の中に根深く残っているのです。

分かりやすい例をあげます。小さいころから物覚えのよい兄と比較されて、「お兄ちゃんはできるのにね」と親から言われ続けたとします。すると、そう言われるのはすごく嫌であるにも関わらず、その環境からは逃げられない(家出するわけにもいかない)ので、いちいち傷つかないように「お兄ちゃんはすごいから当然」「僕はできないから仕方ない」と自分に言い聞かせて、“平然と”受けとめられるようになっていきます。しかし、本当は比較されることがとても嫌で傷ついていて、そんな感情や体験は自分の奥底に追いやっており、そこに根深く残っているというわけです。

自分よりも“できる”お兄ちゃんとも仲良く時間を過ごし、比較される辛さなど忘れて大人になっていくのですが、会社などで身近な人との激しい競争にさらされて「あの人はできるのにね」などと言われた時に、平然とヘラヘラしているつもりが、奥底に眠っていた感覚や感情が湧き出てきて、嫉妬や憎しみなどの複雑な感情が表情や態度に出てしまい、ムキになってしまう。これがコンプレックスです。

ちなみに、身近な他人との比較で「自分のほうが劣っている」という状態に恐れや拒絶の反応を持つことを「劣等感コンプレックス」と呼びます。これはコンプレックスのタイプの中で最も有名なものであり、一般的によく使われるコンプレックスという言葉は、これが短縮されたものです。