人間力を向上させる教育はAIにはできない

そして2つめは、「生徒の人間力を向上させることができる先生」です。

先生という仕事は、ただ単に勉強を教えるだけではありません。生徒一人ひとりの人間力を向上させることも先生の大きな使命だといえます。

生徒たちと真正面から向き合い、個性を見つけてそれを伸ばしていく。こうした人間味のある仕事は、たとえAGIが実現しても代替えされることはないでしょう。

さらにいえば、子どもたちの心の成長を手助けできる先生も必要です。

小学校の先生と授業を受ける子どもたち
写真=iStock.com/paulaphoto
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心の成長というと、さまざまな教育が考えられますが、私が真っ先に挙げたいのが「やさしさ」です。やさしさとは、言い換えればそれは「いかに他の人のことを考えられるか」という能力です。

いつの時代においても、たとえAIがこの先どんなに進化しようとも、他人のことを考えられるやさしさというのは絶対に必要なものです。なぜなら、このやさしさだけは、たとえAGIが理解はしても、本当の意味で持つことはできない、人間だけが持てる特性だからです。

そして3つめは、「子どもの個性を見出せる」先生です。

私もこれまで多くの子どもたちと接してきましたが、子どもの個性というのは実に興味深いものです。例えば、何かのプロジェクト学習をやらせたりすると、それぞれの子どもの個性が浮かび上がってきたりします。

リーダー気質の子どもがいれば、リーダー的な子どもをちょっと後ろでフォローしている「ナンバー2」的な存在の子どももいる。あるいは、「これはこうしたほうがいいかもしれない」といった参謀的な子どもや、みんなが躊躇していることを思い切ってチャレンジする「最初のペンギン」的な子ども、とにかく目の前の作業にただただ熱中している子どもなどなど。こうした個性というのは、やはり教育現場にいる先生が見出してあげる必要があるのです。

というのも、子どもたち本人にとって、自分の個性というのは、なかなかわからないことが多いからです。本人は単に「これが好きだから」「やっていて楽しいから」という感覚しか持ち合わせていないのですから。

こうした子どもたちの個性の話を教育者にすると、ときどき「それって親御さんの役目では?」と疑問を投げかけてくる教育者がいます。でも、実は親御さんたちが子どもの個性を見逃してしまっていることのほうが圧倒的に多いのです。その理由は明白です。

子どもたちは朝起きたら朝ご飯を食べて「行ってきまーす」と学校に行ってしまいます。「ただいま」と学校から帰ってきても友達と遊びに出かけてしまう。帰ってきてもお風呂に入ってご飯を食べて、宿題をしてテレビを見て寝てしまう。すると、実は子どもの個性が見えていない部分も多いのです。他の子どもたちと一緒に過ごしている時間も、見る機会は限られています。

一方、学校では違います。学校で先生というのは、大勢の子どもたちの比較の中でその子の尖った部分が見えやすいのです。まさに、一目瞭然なのです。

この子は芸術の才能がある。音楽の才能がある。パソコンすごいよ、やっぱり数学が得意だね、などとすべてわかる。だからこそ、先生が子どもたちの個性を見出してあげて、尖った部分を育てるためのアドバイスをするというのが先生の重要な仕事になってくるわけです。