生成AIがさらに進化し限りなく人間に近いAGIがもし実現したら、学校教育はどう変わるのか。サイエンス作家の竹内薫さんは「AI先生に任せる授業は増えると思われるが、それでも、AI先生が絶対にできない授業をする人間の先生がいる」という――。

※本稿は、竹内薫『スーパーAIが人間を超える日 汎用人工知能AGI時代の生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

学校から人間の先生が消える日

「AGIが実現したら、先生という仕事はなくなっちゃうの?」

学校などに講演に行くと、ときどき先生たちからこんな質問をされることがあります。そんなとき、私はこう答えるようにしています。

「たしかにこれから先、AI先生は確実に増えていくでしょう。でも、たとえどんなにAIが発達しようとも、生き残る先生がいるのもたしかです」

これがどのようなことか、ご説明しましょう。

黒板の吹き出しを指し示すヒューマノイドロボット
写真=iStock.com/style-photography
※写真はイメージです

従来の教育の中に、例えば生徒に漢字の書き取り、九九や計算ドリル、あるいは英単語の暗記をさせるといった授業があります。こうした授業はもはやAI先生で事足りてしまうでしょう。

では、AI先生やこの先AGI先生ができないことはなんでしょうか。そこに人間の先生たちが生き残るヒントが隠されています。

まず1つめは、「クリエイティブな先生」です。

例えば、数学の授業をすべてAI先生が担う。私はこれには反対です。なぜなら、その先生でなければできないインパクトのある授業が教育現場には必要不可欠だからです。

例えば、授業で素数を生徒に教えるにしても、どう教えるかは、先生のクリエイティビティによって大きな差が出ます。「はい、これが1から100までの素数です。25個あります。覚えてください」と教えるだけであればAI先生で十分です。

そうではなく、「素数って何だろうな。なんで数学者は一生かけて素数を研究するんだろう」。

そこから、いろいろなエピソードを交えて、生徒たちの好奇心に火をつけられるような先生は、必ず生き残ることができるというわけです。

「インターネット上に暗号がたくさんあることはみんなも知っているよね。インターネットショッピングでもインターネットバンキングでもみんなが知らないうちに暗号を使っているんだよ。それがどうして使えるかというと、素数が関係しているんだよ。大きい素数の掛け算をすると、もっと大きい合成数になるんだ。その掛け算は誰でもできるんだけど、逆はできないんだよ。

ある大きな数があったときに、それを素数に分解するってめちゃめちゃ大変なんだよ。なぜかというと、最初2で割れるかをやってみて、3で割れるかやってみて、5で割れるかやってみて、というように、1個1個試すしかないから時間がかかっちゃう。それを暗号システムに使っているから、暗号を解読するにはすごい時間がかかるんだよ」

こんな話ができるのは、クリエイティブな先生ならではです。

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