アメリカに学んだ「高質スーパー」モデルとは
また、ライフが大きく変わる契機となったのが、米国のスーパーマーケット大手アルバートソンズなどの視察を通じて学んだ海外の先進事例だった。単なる模倣ではなく、顧客体験を重視した売場づくりやプライベートブランドのあり方、さらにはオムニチャネル戦略に至るまで、ライフ流に落とし込むことで、独自の「高質スーパー」モデルを築き上げた。
デジタル分野でも、ライフは着実な進化を遂げている。注目されるのが、Amazonとの提携によるネットスーパー事業だ。配送は最短2時間以内。都心部を中心に需要が拡大しており、2024年度のネットスーパー売上は250億円。生鮮品の品質、即時性、品揃えの安定感というライフの強みが、Amazonのシステムと結びつくことで、即時性と利便性を兼ね備えた先進的な買い物体験として、顧客満足度は高水準を維持している。
今後はエリア拡大に加え、ライフアプリとの連携によって“デジタルとリアルの融合”をさらに深化させていくことが期待される。対面販売では難しかった分析・提案型の販促が可能になり、ID-POSとECの統合データで、個別最適なマーケティングも進化していく見通しだ。
あえて「都市型・駅近・コンパクト」展開
一方で、競争の激化も続く。関西ではディスカウント業態の代表格であるオーケーやロピアが相次いで進出。単価の安さとボリューム感で客を引き寄せている。しかしライフは、近畿圏でも業績を維持し、むしろ構造改革によって収益性を改善している。要因の一つが、「都市型・駅近・コンパクト」な店舗戦略の徹底だ。大規模な郊外型ではなく、生活導線に密着した立地を狙い、日常的な購買頻度を確保している。
競合が価格一辺倒に振れる中で、ライフは惣菜や冷凍食品など“手間と満足感を同時に満たす”カテゴリーを強化。値頃感を損なわずに「満足度」を高めるという方向性が支持されている。結果として、近畿におけるオーケー・ロピアの出店は脅威にはなっていない。むしろ「高質志向」を軸にした差別化で、改めて地域内のブランド価値を引き上げていると言える。
創業者・清水信次の理念はいまだ死なず
こうした成果の裏にあるのが、創業者・清水信次氏の精神を継承する企業文化だ。清水氏が掲げた「商業は人なり」という理念は、いまなおライフの現場に息づく。「お客様第一」「従業員を大切に」「社会に貢献する」。この三位一体の価値観を土台に、岩崎氏は「現場主義と改革志向」を融合させた独自の経営スタイルを築いてきた。
岩崎氏は「現場に根差しつつ、未来を見据える」という姿勢が貫かれており、ライフの“高質化”は、トップダウンとボトムアップの両輪で進んだ成果といえる。
さらに岩崎氏は日本スーパーマーケット協会の会長としても業界課題の改善に取り組み、「年収の壁」問題や人材確保に向けた政策提言を積極的に行っている。企業内のマネジメントにとどまらず、業界全体の持続可能性を視野に入れたリーダーシップは、ライフの社会的存在意義を高める要因にもなっている。
ライフは今、価格だけに頼らず、意味ある価値で選ばれる商品を開発する。社員の処遇改善を通じて、人材定着とサービス品質を高める。さらには「年収の壁」問題にもメスを入れ、パート従業員の就労環境改善に向けた業界提言を主導する。経営の枠を超え、地域や社会との共創を重視する視点が、ライフのブランド価値をさらに高めている。
かつて「可もなく不可もなく」と言われたライフは、いまや“行きたくなるスーパー”に変貌を遂げた。価格訴求から“価値の背景”へ。同質化から差異化へ。そして、利便性を超えた“体験価値”へ。ライフの挑戦は、価格だけでなく“意味ある選択”を求める生活者の期待に応えるものだ。その挑戦は、今後の流通業のあり方に新たな選択肢をもたらすだろう。
