松下幸之助が大切にした「順番」

つまり、「お客様目線で考える」とは、

「自分、自組織、自社優先」となってしまう現実を直視したうえで、少しずつお客様にも「親近感」を抱いていく

ことだと言えます。

ただ、仕事の世界は解像度を上げて「わかった」だけでは不十分です。さらに「動けるまで」解像度を上げていきましょう。

その一助として、本稿を執筆していて改めて思い出した「松下幸之助さんからの学び」を紹介したいと思います。

松下幸之助さんといえばパナソニックの創業者であり、日本を代表する経営者のひとりです。

パナソニック佐賀工場
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです

本もたくさん出ていて、今回は『商売心得帖』(PHP研究所)という書籍から「お客様目線」に関する内容を引用してみます。

商品をお客様にお買いいただくということは、自分の娘を嫁にやるのと同じことで、そのお得意先と自分の店とは、新しく親戚になったことになる。かわいい娘の嫁ぎ先がお得意様であるということになると思うのです。

そう考えますと、そのお得意先のこと、またお納めした商品の具合などが、おのずと気にかかってくるのではないでしょうか。

「何とも昭和な言い回しだなあ……」と感じた人も多いことは重々承知のうえで……。それでも、私はこの文章の中に、令和になっても引き続き重要な実践的叡智が含まれていると考えています。

注意深く味わっていきたい最大のポイントは、「まずは商品、それからお客様」という「順番」です。

どれだけ「お客様目線で」と言われても、現実的にはなかなか相手に親近感や臨場感を抱くことができない……。その結果、どれだけ「カスタマーファースト」と連呼されても、「自分ファースト・自社ファースト」になってしまう。

これが偽らざる実態なのではないでしょうか。

まずは自分の仕事に愛着を見出す

一方、普段から取り扱っている商品やサービス、あるいは自身の担当業務であれば、これは自社ファーストのままです。お客様よりも身近に感じやすいはずですし、愛着を見出すことも、相対的に容易になってくるのではないでしょうか。

私は普段、社会人教育の世界でビジネスパーソンの学習支援をしているのですが、こういった悩みや相談を受講者さんから受けるたびに、松下幸之助さんから学んだこのアプローチを紹介するようにしています。

すなわち、まずは「自社の製品やサービス、自身の仕事に愛着を見出すことからはじめませんか」と。

そうすれば、その製品やサービス、仕事の成果物を受け取る相手のことも、自然と「気にかけられる」、というより「気になる」ようになってくるわけです。