江戸の刺身は「塩酢」で食べていた

【久住】添えてあるのは醤油ではなくお酢ですね。

【飯野】江戸では、塩と酢を混ぜた塩酢に鯵を付けて食べることもしていたようです。

【久住】酢洗いや酢〆でなく、直に付けて食べるのは初めてです。わ、普段でも食べたいおいしさだ。薬味と一緒に食べるのもいいですね。塩酢をたっぷり付けてもうまいなぁ。うんうん。

塩酢で食べる鯵の刺し身
江戸の情景を思い浮かべて、塩酢で食べる新鮮な鯵は、はっとするおいしさだ。[出所=『江戸呑み 江戸の“つまみ”と晩酌のお楽しみ』(プレジデント社)]

【飯野】なますという食べ方がありますが、もともとは生の魚介を酢で食べたのでそう呼ばれました。そこから和えずに別々に出したものを「刺身」と呼ぶようになり、言葉が分かれていきました。江戸時代の刺身の調味料は本当に多様です。今と違って、食べる魚によって調味料を変えていました。

醤油が普及するのは、江戸中期以降。それまで何を付けていたかというと、一つは煎り酒です。

【久住】日本酒に梅干し、かつお節を入れて煮切った江戸の万能調味料ですね。

【飯野】酢は、料理によって合わせる材料を変えて味を変えます。たとえばわさび酢や生姜酢、ぬた酢、梅肉酢、たで酢。豆腐と白胡麻と合わせる白酢に、細かくすった昆布と合わせる黒酢などなど。

【久住】塩酢で鯵を食べて、現代人の僕がおいしいと思うのだから、そりゃ当時の人もおいしかったことでしょう。時を経ていろんな思考や価値観が変わってきたというのに、純粋にこの食べ方がおいしいと思う感覚が変わっていないのが本当に面白いですね。それに魚ごとにお酢の味を変える工夫がとてもユニークです。今のようにレシピがあるわけじゃないし、自分なりの食べ方を工夫して編み出した人がいるのでしょう。