社内だけでどうにかなる問題ではない

――本書を読み始めるまでは、自爆営業や厳しいノルマを課せられて現場の局員たちが苦しんでいるのは「民営化によって競争が激しくなったから」だと思っていました。ところが実際には、民営化が中途半端に終わったことで、郵政グループが民間企業として中途半端な状態になったために矛盾が生じ、現場にしわ寄せが行っている、ひずみが生じているのではないでしょうか。

【宮崎】民営化にそもそも無理があったのか、それとも進め方に問題があったのかについては、現場の人たちに聞いても意見が分かれています。局員たちも、やはり「地域のために」「公のために」という気持ちで就職している人が多いのも確かです。

郵政グループという企業体としてみると、不正な営業をして結んだ保険契約(※)などについて指摘されると、一応そこには対策を打つのですが、問題が起きる素地や構造は温存されているため、また別の形で問題が表出してくる。そうした弥縫びほう策ではない、「郵政事業はどうあるべきか」といった根本的な議論が必要です。

過疎化や郵便数の減少なども進んでいく中で、今のままの大きな組織を未来永劫、続けることは不可能だと思います。本来なら郵政グループ内だけでなく、国会を巻き込んでの議論が必要なはずです。

(※編集註:日本郵便が販売を担うかんぽ生命の保険をめぐって、法令や社内ルールに反した「保険金の支払い拒否」や「保険料の二重払い」など不適切な販売が問題になり、2021年に日本郵便の社員など3300人余りが懲戒解雇や停職などの処分を受けた)

局長会に支援を依頼する小泉ジュニア

ところが、自民党は局長会から組織票で支えられており、局長会が難色を示す民営化推進の政策を進められない。また立憲民主党も、郵政グループの労働組合から支持を受けているためだと思いますが、郵政側にとって耳の痛い提案をすることはほぼありません。

郵政民営化に踏み切ったのは自民党ですが、民営化にブレーキをかけるような法改正を行ったのは民主党政権時代で、これは自民・公明と合意の上で進めたものです。

小泉進次郎
郵政民営化をした父は何を思うか(首相官邸HPより)

これがまた複雑な状況を生んでいて、民営化推進派だった人たちは「民主党政権のせいで改革が中途半端になった」と言い、民営化に反対していた人たちは「小泉竹中路線がそもそも間違っていたのだ」と言う。そうした宙ぶらりんの状態の中で、与党は局長会と結びついており、本質的な議論や大きな変革が望めません。

2024年9月の自民党総裁選では、小泉進次郎氏が局長会に支援を要請するための面会を行って話題になりました。しがらみのない立場から、郵便局のあり方を提案しているようにみえるのは共産党や維新の会くらいで、実際に国会で質問もしていますが、数が少ないので大きな動きにはつながっていません。