巨大複合災害の対応で混乱真っ只中の5月11日、沖縄・普天間基地の移設問題で新たな狼煙が上がった。米上院の重鎮レビン軍事委員長ら有力議員3名が、「名護市辺野古への移設」という日米合意内容を覆す「嘉手納基地への統合案」を米国防総省に提出したのである。

日米両政府は昨年5月、米海兵隊のグアム移転を前提として、普天間基地の辺野古への移設と移転費の日米両国分担を約束した。しかし、日本は災害補償に追われ、米国は財政悪化が慢性化している。米国では4月になってやっと、半年以上も滞っていた予算案審議で、政府案から390億ドル(約3兆3000億円)の削減を民主・共和の両党が合意したばかりだ。

「コストカッター」で知られるパネッタ中央情報局(CIA)長官がこの7月から次期国防長官に就任することになったのも、逼迫した米国財政を国防費削減で立て直すためである。レビン氏らの提言は「海兵隊移転、グアムのインフラ整備は経費がかかりすぎる。安上がりの嘉手納に統合せよ」というものだ。米国にはグアム移転に充てる金がないのだ。

米国では、国防費削減への意識変化が今年に入って顕著だ。>>PRESIDENT4月4日号でも報じたが、今年1月の米国世論調査では、半数が「在日米軍は撤退すべき」と回答し、2月には米有力議員が「米軍の“抑止力”は単なる口実だ」と発言するなど、今回の提言にはいくつかの前段があった。米予算局が昨年10月から今年4月の財政赤字を8710億ドル(約73兆円)と明らかにした5月6日、辺野古への移設に固執し続ける日本の外務省高官が米政府に内通していたことを「ウィキリークス」が暴露した。同じ日に、アーミテージ元米国務副長官は「普天間問題はしばらく待つべき」と発言している。また、国民新党の下地幹郎議員が、ジョーンズ前米大統領補佐官の口から「普天間閉鎖、嘉手納統合が最良策」との話を引き出したのも同じ日だ。嘉手納統合案は下地議員の持論である。ただし、嘉手納基地は「殺人的な騒音被害」で知られており、住民の反対は根強い。

普天間問題の選択肢は「国外撤去」「県外移設」「現状維持」の3つ。前二者であれば当然、日米改定安保の見直しと国家自衛戦略が議論されねばならない。はたして、外国の財政事情に振り回されるような防衛論議で日本は大丈夫なのか。