敬語は“相手との距離”を遠ざけてしまう
言うまでもなく、敬語のマナーは大事です。しかしそれにとらわれすぎて、血の通ったコミュニケーションができなくなってしまったら、それこそ本末転倒です。そもそも敬語というのは、使い方ひとつで相手との距離を遠ざける効果があります。たとえば、夫婦喧嘩をした際に、どちらの方が距離を感じますか?
A 「あんたねー遅くなるときは、いつも連絡してって言ってるでしょう? 何度、おんなじことを言ったらわかるのよーもう、ほんっとに!」
B 「遅くなるときはいつも連絡をしてほしいと今まで何度も何度も言ってきましたよね。何度同じことを言わせたら、あなたは理解するんですか。いい加減、やめていただけますか」
Bの方が、距離を感じ、突き放されたように思いませんか。では、敬語を正しく使いながらも、相手の懐に入るためには、いったいどうしたらいいのでしょう。ここでも絶大な効果を発揮してくれるのが、『「気くばり」こそ最強の生存戦略である』でお話しした「ラポール」です。
「ラポール」とは、ビジネスシーンでは、「相手と信頼関係を築き、よい人間関係を保つ」こと。もとは、心理セラピーで大切なものとして唱えられた臨床心理学用語なのですが、近年では、一般的な人間関係にも応用されるようになりました。私はこれを、さらに自分なりに解釈し、コミュニケーションの講座などでは「愛の架け橋」と呼んでいます。
距離感に応じて、言葉を使い分けるといい
相手には、この「愛の架け橋」をかける意識で接するのです。すると、自然とウェルカミングな雰囲気が自分から醸し出されます。それが「親近感」の元となり、基本は敬語でありながらも、相手を温かく包み込むような血の通ったコミュニケーションができるようになるでしょう。
誰に対しても丁寧で、言葉遣いもちゃんとしているのに、すごく親しみやすい。そういう人こそ、人は「また会いたい」と思うもの。「敬意+ラポール」を意識するだけで、お互いに絶妙に心地よい距離感から、人間関係をスタートさせることができるのです。
そう考えると、やはり、敬語をきちんと使えることは重要です。「です」「ます」を語尾にする程度の丁寧語やタメ口しか知らなかったら、それが唯一の自分の言語となってしまいます。でも、これらに加えて尊敬語と謙譲語も知っていれば、相手との距離感の変化に応じて敬語のままでいることもできるし、丁寧語やタメ口に変えていくこともできます。
尊敬語は相手の動作につける(相手を敬う)敬語で、謙譲語は自分の動作につける(自分がへりくだる)敬語です。それだけ覚えておけば、敬語の使い分けはそんなに難しいものではありません。
「知っている」というのは「選択肢が増える」ということです。より多くの状況に対応できるようにするための基本的な敬語は、覚えておくことをおすすめします。