中国の「なんちゃって富裕層」が日本に……

なんだかがっかりする話だが、そもそもこの報告書が間違っているという可能性はないだろうか。なにせ日本政府の在留外国人統計によると、2023年末時点に経営・管理ビザで日本に滞在している中国人は1万9334人、コロナ前の2019年末から約5000人も増えている。約2万人の中国人社長は決して少ない数字ではない。

「経営・管理ビザで日本に住んでいる社長さんはたいてい“なんちゃって富裕層”ですね」

在日中国人の李氏(仮名)は言う。同氏は沖縄県で民泊3棟を経営する実業家だ。「プール・屋上バーベキュー施設あり、1泊10万円」というリゾート観光客狙いの戦略が当たっているという。立派な富裕層に思えるが、「私も“なんちゃって富裕層”です。親のマンションを売ったら、東京湾岸のタワマンが2軒買えてしまいました(笑)。それが値上がりしたので、1軒売って沖縄で民泊を始めた次第です。私の故郷、北京の不動産はこの20年余りでめちゃくちゃ値上がりしました。安い時に2軒3軒買っていた人も多いので、うちぐらいの資産はごく当たり前ですよ」

北京市の住宅平均価格は2004年の1平米4747元から、2022年には4万7784元と10倍になっている。あくまで平均なので条件がいい物件の値上がり率ははるかに高く、数十倍に跳ね上がった物件もある。しかも、1998年までは政府機関や国有企業に勤めていると、格安で住宅が支給される制度があったため住宅ローンも組まずに「富裕層」になった人もざらだ。

「私たちは中国高成長の恩恵を受けられた、ラッキーな世代です。今の世代にはこんな棚ぼたはもうありません」(李氏)

不動産仲介業のBEACON株式会社を経営する梁子軒代表も、日本の不動産を購入する中国人は多様だと証言する。

「この1年は確かに富裕層の投資が増えました。コロナや米中対立の影響でしょう。ただ、シンガポールなど伝統的な移住先に向かう人のほうが多いのは事実です。数だけで言えば、富裕層よりも北京市や上海市で働くホワイトカラーの投資が多いでしょう。日本の大手不動産会社も中国人向けの専門部署があって、マンション購入ツアーを実施しているほど力を入れています。

もともと中国人の日本不動産投資はワンルームや1Kなど、中古の小型賃貸物件が中心でした。郊外なら数百万円から投資でき、年利5%は堅い。それが2020年ぐらいから新築物件の価格上昇が始まり、湾岸のタワマン購入にトレンドが変わりました。湾岸は日本人からすると交通が不便で敬遠されがちですが、中国人からすると海に面して、眺望も風水も最高の立地です」(梁代表)

なお、前述の夏川社長によると、「本当の富裕層が自分のために購入するのは港区が主流。ステータスですし、マンションのレベルが違う。値段も1桁上ですが」なのだとか。

さて、湾岸のタワマン投資の主力となる“なんちゃって富裕層”、アッパーミドル(中産層上位)だが、物件購入目的は純投資と移住が半々だと、梁代表は言う。

「医師や弁護士などは日本に移住したら仕事がありません。稼ぎを気にせず移住できるのが本当の富裕層だとすれば、ごくごく一握りですね」

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