親から子供への虐待は、暴力を伴うものばかりではない。「心理的虐待」を受けていたサバイバーたちを取材したフリーライターの姫野桂さんは「子どもに暴言を吐いたり、きょうだいで比較したりすることも虐待だ。身体的虐待や性的虐待と比べるとわかりにくいが、子どもの心に大きな爪痕を残す」という――。

※本稿は、姫野桂『心理的虐待 子どもの心を殺す親たち』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

部屋のベッドに一人で座り、夜の街を窓から覗く女性
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虐待相談でもっとも多いのは「心理的虐待」

児童虐待のニュースをよく耳にする。

一般的に、食事を与えずに放置する(ネグレクト)、暴力を振るう(身体的虐待)、性的虐待などが児童虐待のイメージとして広く流布しているのではないだろうか。

しかし、2023年9月7日にこども家庭庁が発表した「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数」によれば、全国232カ所の児童相談所への相談件数は過去最多の21万9170件(速報値)にのぼっているのだが、そのうち、12万9484(59.1%)を占め、最多の相談件数となっていたのは、身体的虐待でもネグレクトでも性的虐待でもない。

では、もっとも多い相談件数となっており、今もなお増加傾向にある虐待とはなんなのか?

それは、「心理的虐待」である。

きょうだいで比較、差別するのも虐待

2012(平成24)年度の調査までは、身体的虐待やネグレクトが相談件数の上位に入っていることが多かったが、2013(平成25)年度に最多の相談件数となって以降、年々増加傾向にあるのが「心理的虐待」である。

心理的虐待とは、児童虐待防止法第2条において、次のように定義されている。

「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」

具体的にはどういうものを指すかというと、次のような行為だ。

・きょうだいで比較する
・著しいきょうだい差別をする
・自尊心を傷つける言葉を繰り返す
・子どもに暴言を吐く
・言葉による脅かし、脅迫など
・子どもを無視したり、拒否的な態度を示す
・子どもに配偶者の悪口を言う
・子どもの前で配偶者やその他の家族に対し暴力を振るったり暴言を吐いたりする