「アク抜き」という技術

植物が自らの身を守るために生み出している成分の中には、ポリフェノールなどの有用な栄養素がある一方、人体にとって毒になるものも含まれています。アルカロイドと総称される成分です。その中には薬に転用されているものもあり、「毒と薬は紙一重」といったところなのですが、そのような成分を不用意に口にすれば、健康に害が及ぼされることもあります。山菜に含まれるアクなどはその代表例です。

しかし人類は、そうした毒素も、「アク抜き」という形で適切に取り除いた上で、野菜などから体にいい部分だけを摂取する知恵を身につけてきました。

そうした知恵が代々受け継がれてきたのも、ホモ・サピエンス特有の“集団脳”の賜物なのではないでしょうか。現代においても人気の「肉野菜炒め」(日本はもちろん、中国文化圏や東南アジア全域で普遍的な調理法のひとつ)なども、そんな中から生まれてきた料理なのかもしれません。

野菜
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植物の生存戦略を利用する

植物がそうした多様な成分を産生するのは、本来は自らが生き延びるための生存戦略であるわけですが、人類はその植物の生存戦略を上手に利用して、自らの免疫力や抵抗力を高めてきたのだということです。

そしてネアンデルタール人は、不幸にも、その術を知らずにいたのではないでしょうか。食肉が入手しづらくなったときに、野菜などで食いつないで生き延びるという知恵もなく、肉食に依存していたばかりに、疾病に対する免疫力にも乏しかった。それこそが、おそらく彼らの敗因だったのだろうと私は考えています。

野菜を食べるかどうかで明暗が分かれたネアンデルタール人とホモ・サピエンス――。それだけでも、野菜を食べることがいかに重要かということがおわかりいただけるのではないかと思います。

一石 英一郎(いちいし・えいいちろう)
国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授

医学博士。1965年、兵庫県生まれ。京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。アメリカがん学会(AACR)の正会員(Active Member)。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表した。人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得。著書に『日本人の遺伝子』(角川新書)など