故・安倍晋三氏が首相時代に打ち出した「アベノミクス」は、日本経済にどのような効果をもたらしたのか。『週刊文春』、月刊『文藝春秋』の編集長を歴任し、安倍氏への取材を重ねてきた鈴木洋嗣さんは「アベノミクスは修正しなければならない」と断言する。新著『文藝春秋と政権構想』(講談社)より、一部を紹介する――。
東証の鐘鳴らした安倍首相 企業統治改革、株価3倍超
写真=共同通信社
2013年12月30日、東京証券取引所の大納会で鐘を鳴らした安倍首相=東京・日本橋兜町

世界初「ゼロ金利」を採用した日銀総裁の言葉

安倍政権、菅政権と続いたアベノミクスの評価は、岸田政権になっても定まっていない。しかし、日本経済はすでに物価上昇率3%を超えるインフレ状況が出来している。今こそ、アベノミクスをきちんと総括しておくべきではないだろうか。

2001年にゼロ金利政策を一時的に解除したときにインタビューした日銀総裁、速水優の言葉が忘れられない。

「中央銀行は『銀行券の発行』『通貨・金融の調節』『資金決済の円滑化』『信用秩序の維持』の四つの役割を担っているわけですが、要するにすべて国民生活のためなんですね」(『文藝春秋』2001年1月号)

日銀の役割について端的に指摘した上で、世界で初めて採用した「ゼロ金利政策」について言及していく。

「ゼロ金利政策については、副作用も指摘されました。民間主導で中長期的に構造改革をしていかなければ、日本経済は海外に対抗していけないわけですから、構造改革をやっていくためにも、金融サイドからも必要な環境づくりをしていかなければならないと考えます」

ゼロ金利は「前例のない極端な政策だった」

「優良なところには貸していくけれど、悪いところには貸せないというのは、ごく当たり前な原則で、そういう是々非々を金融機関がとれるような態勢にしていくことが、中長期的にはいいんだろうと思います」

そしてこう断言していた。

「私は『ゼロ金利』は前例のない極端な政策だったと思うのです」

そして「ゼロ金利解除」が健全な姿であると思いますか、との問いにこう答えた。

「リスクをカバーするために金利があるわけですからね」

生え抜きの日銀マンで、日商岩井の経営を担ったこともある総裁の言葉だけにその意味は重い。インタビュー後の雑談では、「ゼロ金利」は本来やってはいけない政策である旨を語っていた。

アベノミクスはさまざまな視点から検証しなければならないとは承知している。そのなかで素人なりに考えてきた最大の問題点は、「ゼロ金利を長く続けすぎた」ことではないだろうか。

日経新聞の編集幹部が「いまのウチのデスク連中ですら、金利のある世界を知らないですから。日銀が金利を上げると言ってもピンと来ないんだから、話にならない」と嘆いていた。いまは40代後半で幹部になっている記者が、入社したころから金利はなかったのだ。