強力な異民族部隊をジョーカーとして使える国が強国に
戦国時代は、「中国」の中だけで争っていたのではなく、東西南北から容赦なく攻め込んでくる異民族たちとの戦いの時代でもある。史実でも、李牧は匈奴から趙を守る戦いで功績を挙げてきた。降伏させた異民族は自国の兵に組み込むのが通例で、李牧は匈奴出身の将や兵士を擁していたはずだ。漫画では、舜水樹がそのような存在として示唆されている。
『キングダム』で、山の民が秦に味方したり、楚が南方の部族に象を操らせたり、あるいは燕の劇辛が犬戎出身者で構成される騎馬隊を従えていたように、戦国時代の国はこぞって異民族を自軍に組み入れようとした。強力な異民族部隊をジョーカーとして使える国が強国となっていったと言ってよい。その意味で、異民族と国境を接していない魏や韓はひじように不利な戦いを強いられたといえる。
戦国時代の人々は、異民族を総称して「夷狄」と呼んでいた。夷狄は東夷、西戎、南蛮、北狄と4分類されている。これらは異民族を野蛮人と見なして中国側が勝手につけた蔑称だが、彼らの武力を中国人が脅威としていたことの裏返しでもある。
キングメーカー呂不韋はもともと武器を扱う趙の商人だった
戦国七雄のなかで、秦はもっとも積極的に異国の才人を登用していた。しかも秦では、その異国人たちが国の運命を左右するような活躍を見せた。孝公が登用した衛の商鞅が氏族制を解体した立役者なら、子楚を王位に就け、結果、政を中華統一へと向かわせたのは趙の呂不韋であった。
『キングダム』では、政の後ろ盾でありながら自らが王位に就こうと画策している、スケールの大きな政敵として描かれているが、実際はどんな人物だったのか。
もともと趙の商人だった呂不韋は、塩や武器を扱うことで巨額の富を蓄え、それを利用して一世一代の投資を行なった。呂不韋が投資の対象としたのは、当時趙で人質となっていた秦の公子・子楚だ。子楚は昭王の孫に当たる。昭王の子、つまり子楚の父・安国君は秦の太子だったが、白起を止めるために趙と和平協定を結ぶ際、自分の子供である子楚を人質として差し出した。安国君には複数の夫人と20人以上の子供がいたが、子楚の母はすでに安国君の寵愛を失っていた。人質にされた時点で、子楚が王位を継承する可能性はほぼゼロに等しかったのである。