つまり、追悼文取りやめは自民党都議の質問がきっかけだった可能性が高い。東京都議会のHPで当時の記録を調べてみるとそれは3月2日だった。

『朝鮮人犠牲者追悼碑の改善を 戦没者を追悼し靖国神社参拝を』古賀俊昭(自民党)

自民都議・古賀俊昭氏の質問で注目したのは次の言葉だ。

《私は、小池知事にぜひ目を通してほしい本があります。ノンフィクション作家の工藤美代子さんの『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』であります》

古賀都議の主張は

「工藤美代子」という名前が出ている。『トリック―「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(加藤直樹 著)という本では、工藤美代子・加藤康男夫妻が著した朝鮮人虐殺を否定する本を取り上げ、どのように間違っているかを検証している。仕掛けられた“トリック”の数々を明らかにしているのだ。ネット上で広まる「虐殺はなかった」論は工藤美代子氏らの言説の鵜呑みが多いのだ。古賀都議はその本を小池氏に紹介していた。

古賀都議は質問の中で、朝鮮人追悼碑に犠牲者の数として「6000人」という数字が刻まれていることを「事実に反する一方的な政治的主張」で「むしろ日本及び日本人に対する主権及び人権侵害が生じる可能性があり、今日的に表現すれば、ヘイトスピーチであって、到底容認できるものではありません」と述べていた。

『トリック~』ではこれについて、

《約6000人という数字は、震災後に朝鮮人留学生たちが監視の目をかいくぐって現地調査した結果を、上海の独立運動機関紙がまとめ、発表した数字に基づく。近年、研究の進展によって必ずしも実態を正確に捉えた数字ではないとされるようになり、最近は「数千人」という幅のある記述がなされることが多い(略)ただし、追悼碑が建立された1973年時点では、政治的立場を問わず「6000人」と記述するのが普通だったので、これが「政治的主張」だという古賀氏の主張は当たらない。》

と指摘している。さらに古賀都議は工藤美代子氏の本に依拠して、何の罪もない朝鮮人が殺されたという歴史認識自体を否定していたことにも言及している。要するに「6000人」という人数は不確かだ、というのは質問の柱ではなかったのだ。都議会の記録を読むと追悼碑について「撤去を含む改善策を講ずるべきと考えますが、知事の所見を伺います」と「撤去」も提案して質問を終わらせていた。