驚くべきことに、公開から1ヶ月あまりの現在、『劇場版名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の興行収入は130億円を突破。昨年、劇場版シリーズ26作目『黒鉄の魚影』が半年かけて達成した歴代最高の累計記録、138億円にわずか1ヶ月あまりで迫ろうとしている。
昨年の『黒鉄の魚影』の時点で、過去の記録を大きく上回って100億円を突破する成績を記録し、年末に行われた東宝の発表会で執行役員が「製作委員会の中でも色々議論しています」と驚きを隠せない躍進だったのだが、今年はそれをさらに上回る観客動員を見せているのだ。
公開日4月12日の0時から始まった深夜上映が全国でソールドアウトし、ゴールデンウィークにかけて映画館がコナン一色に染まる様子は、まるでコナン映画が初詣やクリスマスのような国民的祝祭になった感すらあった。
他のヒット作とは決定的に違う
ハリウッドのストライキによって洋画のライバル大作が例年より少なかったことも、前作の100億突破による報道がさらに観客を呼んだことも要因のひとつではあるだろう。だが、そんな分析を書いていても何か的を外しているように感じてしまうのは、そもそも27作目を迎えて最高記録を更新し、ついに毎年100億円の成績をあげるに至った劇場映画シリーズなど、日本どころか世界を見渡してもほとんど例がないからだ。
しかもその内容は“ラブコメと推理”という、本来なら国民的ヒットや長寿シリーズになりにくいジャンルの作品なのである。数多い日本の漫画ヒット作の中で、推理とラブコメというジャンルで100巻を超えた少年漫画は『名探偵コナン』以外にひとつもない。興行収入で100億を超えたアニメ映画でも同様である。なぜ『名探偵コナン』シリーズだけがマーケティングの常識を裏切り、四半世紀を超えて人気を維持するどころか飛躍的に伸ばし続けるのか。
しかも、劇場版『名探偵コナン』シリーズの100億円は他の多くの邦画ヒット作と異質である。劇場版『名探偵コナン』シリーズはメガヒット作品の定番戦略である「来場者特典」を出していない。映画の力だけで観客動員を伸ばし、ついに特典なしで100億円を超え1000万人の動員が見えるところまで来たのは日本映画界にとって驚異的なことである。
長い制作期間と巨額の制作費を投じて作られるスタジオジブリ作品や新海誠作品と同じレベルの興行収入を、毎年制作されるコナン映画が毎年叩き出すようになった。そのことの持つ意味は大きい。劇場版『名探偵コナン』の製作委員会には、日本テレビ、読売テレビ、東宝、小学館集英社プロダクションなど錚々たる日本のコンテンツ制作企業が名を連ねる。『名探偵コナン』が毎年生み出す巨大な利益は、東宝や日本テレビといったコンテンツ制作企業のもとに流れ、そして他の多くの作品を生み出す原資になる。それは単に『名探偵コナン』という作品の成功を超えて、東宝や日本テレビといった日本を代表するコンテンツ産業が持続可能性のある巨大で安定した収入源、資源やエネルギーを手にしたに等しい。