きちんとこの震災を理解できない
岩手県立岩谷堂高2年生の及川秋平さん。将来は国家公務員になって海外とのつながりつながりを持つ仕事がしたい。ここまで訊いていて、いちども「安定」という単語は彼の口からは出ていない。抽象的な質問を投げてみる。及川さん、国家公務員になるために、資格以外に必要なものは何ですか。
「芯ですかね、自分の。小学2年生の時には『農家と公務員になりたい』と何かに書いていまして。今になって見返してみると、農家と公務員が両立するのかなと思いますが。今までは祖父や父の影響か『県庁で働きたい』とか、『先生になりたい』『農家になりたい』とコロコロと変わってはいたんですが。わたしはよく言えば、いや悪く言えば、人に影響されやすいタイプでして。でも、影響されて、興味を持って、考えていくことによって、また違う考えも自分の中で出てくるでしょうし。 そういう中でも、やっぱり憧れというのを大切にしたいなと」
取材から3カ月後、志望に変化はありませんかとメールで問うと「変わっていません。しかし高き・狭き門ということなので、国家公務員試験に受かるか不安は抱えています。3カ月の間に、周りには『国家公務員なんて無理だ』と言われていますが、今は周りに左右されず勉学に励んで将来に繋げていきたいです」という返事が返ってきた。インタビュー時の口調と、メールの文体に大きな違いがないことは、及川さんのことばの特徴だ。
及川さんは、勉強の仕方は自分では上手だと思いますか。
「いえ、上手じゃないと思います。1つの物事に集中しすぎる。先週定期テストが終わったばっかりなんですが、『この教科をやろう』と思って9時に始めて、1~2時間後に違う教科を始める予定でいてもやり続けて、気がついたらもう1時、2時になってしまって、『ああ予定が狂ってしまった』と」
センター試験を受けるには、一番まずいタイプなのでは。
「そうですね。自覚はあります」
「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」で、サンフランシスコ総領事館で働く国家公務員に会って、及川さんの今の志望がある。「TOMODACHI~」のような海外体験を、誰かに勧めたいと思いますか。
「きちんとアンテナを立てて吸収しようと思ってる人のチャンスにして欲しいと思います。将来の糧になるし、違ったものの見方ができる。自分がこうやって進めたみたいに、行って来ることで、他の人にも影響を与えることができるよ、その体験ができた人を広めていくことで、新しいことを生み出す人が確率的に増えることになるよ——と後輩には言いたいです。ただ、アンテナを張ってない人には行って欲しくないなと。わたしから見ると、岩谷堂高の生徒はアンテナを張ってない人が多すぎる。自分から取り組んでいこうという姿勢がある人が少ないんです、うちの学校は、何事にも」
及川さん、今の話は、偏差値が高い学校のほうが、アンテナを張っている人が多いという意味ですか。
「必ずしもそうはならないと思いますが、やっぱりアンテナ張ってる人は、学力云々が高いからこそ、『アンテナを張ることが自分の糧になる』という考え方ができているのかもしれませんし。偏差値が低い人でも、自分がこれから成長していくためにアンテナを張ることが大切だとわかっている人もいるでしょうし」
ここまで訊いてきて、及川さんが、こちらの直截な問いにも実直に向き合う高校生だということはよくわかった。だからこそ、これを訊こう。及川さん、岩手は被災県です。しかし、内陸は津波の被害を受けたわけではない。敢えて訊きますが、震災に対し、内陸の高校生であることの難しさは何ですか。
「まず、実際にその現場を見ていないんです。停電になっていなければテレビで見ることができたのかもしれませんが、テレビを見れるようになったときには、もう報道規制がかけられていて、危ないところとかカットされて。もし停電がなくて、そのときにテレビ越しで見ていれば——言ってしまえば——他人事という意識が強くはならなかったのかな。最初の1~2週間は、身近だという意識はあったんですけれど、時が移りゆくと、どんどんどんどん他人事に。もしかしたら、阪神淡路大震災が起こった時、こっちはそうだったのかも知れませんし。他人事という意識を自分では『持っていない』と思っていても、(沿岸部の)相手からしたら、そう思われるような行動を自分もとっているのかもしれないので、沿岸の方とあまり深く話ができない。どうしても安全なところからの言い方になってしまって。それもまた、きちんとこの震災を理解できない要因の1つになっていると思うので、それがちょっと辛いというか、自分にとっていいのか、どうか」
今、この場、及川さんの隣には、その沿岸部で被災し内陸に越してきた高校生がいる。彼女に話を聞いた。