隆盛を誇った家電、スマホ分野の敗北

企業などのデジタル化への対応も遅れた。労働市場の流動性は高まらず、在来分野に経営資源(ヒト、モノ、カネ)は塩漬けにされた。ハイブリッド車の創出が景気を下支えしたが、経済全体で労働生産性は低迷したまま賃金も伸び悩んだ。

一方、海外経済の環境変化は加速した。2000年代、中国や韓国など新興国経済で、工業化が進み製造技術も高度化した。家電、スマホなどの分野で、米国企業は国際分業を強化し収益性は高まった。そうした環境変化にわが国企業の対応は遅れた。

わが国経済の実力である潜在成長率は趨勢的に低下した。それに加えて、国際的に食料やエネルギー価格の上昇でインフレが加速し、賃金上昇が物価上昇に追いつかず今年2月まで23カ月連続で実質賃金は前年同月の実績を下回った。

2024年春闘での賃上げ(ベースアップ)は平均3.57%(金額で1万827円)だった。それに対して、3月の全国の消費者物価指数は前年同月比2.7%上昇した。期間をならしたデータでみると、2023年度の食料価格は前年度比7.4%上昇、家具・家事用品は同7.0%上昇だ。

名目賃金を上回るペースで食料や日用品の価格は上昇し、家計の生活負担は増えた。その結果、個人消費は盛り上がっていない。構造問題は深刻だ。

「残業」ではなく「賃金」で需要に対応する米企業

4月、日銀は慎重かつ段階的に、政策金利の追加引き上げを目指す方針を示した。インフレ率が2%を上回る状況下、物価安定を政策目標とする日銀は本来なら利上げを検討するタイミングなのだが、単純に利上げカードを切れるほどわが国経済の足腰は強くないということだろう。

米国経済は想定された以上に好調だ。重要なのは賃金が高止まりしていることだ。わが国と異なり、米国の企業は需要に応じて柔軟に労働力を調整する。需要が増えると、米国の企業は残業ではなく、賃金を積み増して人手を増やして対応する。

コロナ禍対策の財政支出によって、米国の個人消費(需要)は増加した。一方、ベビーブーマーの退職などにより人手不足は深刻化した。企業はより高い賃金を提示し、目先の事業運営に必要な人員確保の必要性に迫られた。2022年3月以降、連邦準備制度理事会(FRB)は急速に利上げを進めたが、時給の上昇率がコロナ禍発生前を上回る状況は続いた。