自立した子供を育むにはどうすればいいか。外山滋比古氏の『新版 思考の整理学』(ちくま文庫)によると「親が先回りして引っ張るグライダーではなく飛行機型の思考が重要だ」という。小児科医の成田奈緒子さんが本書の書評を紹介する――。

「思考」の進化はまず積み上げ、最適解を確立していく

江戸城の石垣には3種類ある。

戦国時代に築城されたときには野面積のづらづみと言って石を加工せずにそのまま積み上げた石垣であったが、それが時代を経て家康が江戸城に入ったときには、石と石の間の隙間を減らすよう加工する打込接うちこみはぎという手法に代わり、さらに徳川幕府が確立されて後に築かれた石垣では切込接きりこみはぎという、直方体に切り抜かれた大石を隙間なく美しく積み上げる手法で堅牢で攻めにくい構造が実現した。

人間の発達期の脳における「思考」の進化もまさにこの石垣と同じである。初期には目的のために稚拙な手段ではあるが、まずは「積み上げてみる」。

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そこからもっと効率よく、堅牢でエレガントな方法はないか、試行錯誤を経て、その人に合った最適解の「思考」の形態を確立していく。これこそが「脳の育ち」なのであり、さらに言えば人格の確立なのである。

子どもの発達は、そのほとんどの部分を「脳の育ち」と言い換えることができる。この脳の育ちには順序があり、生まれてすぐに「切込接」型の思考ができる状態になる子どもは絶対にいない。まずは寝ること・食べること・自律神経の働きなどを持つ脳幹・間脳系が発達して、独立生存可能になる。

「野面積」の状態である。その後「知識・情報」を蓄積する大脳新皮質が発達していった上で(「打込接」の状態)、最終的に前頭葉を使って個体独自の思考、「切込接」ができるようになる。歴史を順序良くたどったからこその最適解なのである。