イントロダクション
多くの人にとって「疲労」は身近なものだろう。2023年に行われた日本人10万人を対象とする調査によると、78.5%もの人が「疲れている」と答えたという。
だが、残業などで「疲れた」というレベルから、うつ病にもつながる過労まで、疲労もさまざまだ。そうした分類や原因を、科学はどう解明しているのか。
本書では、日本の疲労研究をリードする著者が、疲労の原因やメカニズムについて、自身の研究成果を含む最新の知見を詳細に紹介している。
一般的には「疲れた状態」を指す言葉である「疲労」だが、一人ひとりの感覚である「疲労感」と、客観的に観察が可能な体の障害や機能低下である「疲労」は異なる。さらに後者は、一時的で休息により回復する「生理的疲労」と、持続的で休息したくらいでは治らない「病的疲労」に分けて考えなければならないという。
著者は、東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授。同大学疲労医科学研究センターセンター長を兼任。生理的疲労のメカニズムの解明、うつ病の原因遺伝子SITH-1の発見など数多くの業績をあげている。
1.生理的疲労とはなにか
2.慢性疲労症候群 病的疲労の代表格
3.うつ病 究極の病的疲労
4.新型コロナ後遺症 見えてきた病的疲労の正体
5.ついにすべてがつながった
6.人類にとって疲労とはなにか
疲労には「生理的疲労」と「病的疲労」がある
一般的に使用される用語である「疲労」には、2つの意味が含まれています。疲れたという感覚である「疲労感」と、疲労感の原因となる「体の障害や機能低下」です。
過剰な活動によって体の組織に障害が生じているときに、脳にその危険を知らせてくれるのが「疲労感」という感覚です。脳はこの感覚を感じることによって、無意識に活動を低下させます。
では、疲労感をもたらす原因となる「疲労」とは何でしょうか。疲労は、「生理的疲労」と「病的疲労」の2種類に大別されます。仕事や運動などで発生し、1日休めば回復するような短期的な疲労を、生理的疲労といいます。
これに対し、何カ月も続き、少々休んだくらいでは回復しない疲労は、病的疲労と呼ばれます。病的疲労のなかで、最も発生する頻度が高いのが「うつ病」の疲労です。また、「慢性疲労症候群」という原因不明の慢性疲労も有名です。