難聴は「孤立」リスクを2.78倍に高める

難聴はコミュニケーションの低下のみならず、心身にさまざまな影響をおよぼすことがわかってきている。先ほどから述べている認知症のリスク要因であるということ以外に、難聴はどのような影響をおよぼすのか。さまざまな報告がなされており、その一部を紹介する。

社会的孤立

社会的孤立は、高齢者が生涯を通じて影響を受ける、世界中が直面している健康問題である。

60歳以上の人を対象として、高齢者の社会的孤立に関連する要因を明らかにすることを目的として行われた解析では、複数のリスク要因が明らかにされた。そのなかで、難聴があることは社会的孤立のリスクを2.78倍にすることが明らかにされている。これは、配偶者なし(リスク2.61倍)、80歳以上であること(リスク2.41倍)と近い値であった(Wenほか)。

うつ病になりやすく、転びやすい

うつ、不安

聴覚障害がうつ病の発症と関連していることが、近年報告されている。これは、聴覚障害による生産性の低下、コミュニケーション能力の低下、社会的孤立、QOLの悪化によって説明できるかもしれない。高齢者の、うつ病の新規発症リスクを明らかにすることを目的に行われた韓国での調査の結果、聴覚障害がある人のうつ病の発症リスクは、聴覚障害がない人と比較して、1.11倍であるということが示された(Kimほか)。

転倒

高齢者の転倒は疾病予防や健康増進の観点から非常に重要な問題である。そのため、予防できるリスク要因を明らかにする試みがなされてきた。特に、難聴が転倒と関連していると考えられる要素として、以下が考えられている。

内耳の機能障害 蝸牛かぎゅう(聴覚を司る)と前庭ぜんてい(身体の平衡感覚を司る)の機能障害が同時に起きることがある。

空間的環境の認識不足 難聴により聴覚的な情報や空間的環境の認識が不足する場合がある。

小島博己編『耳は悩んでいる』(岩波新書)
小島博己編『耳は悩んでいる』(岩波新書)

認知機能への影響 難聴は認知的な負荷や注意の分散を引き起こし、これが転倒につながる可能性がある。

40歳から69歳の2017人のアメリカ人を対象として、難聴と転倒歴の調査が行われた。この調査の結果、難聴と転倒の間には明確な関連が見られた。具体的には、25デシベルの難聴(軽度難聴に相当)を持つ人は、過去1年間に転倒する確率が約3倍に増加していた。

さらに、聴力の損失が10デシベル増加するごとに、転倒を経験するリスクが1.4倍増加したというデータもある(Lin and Ferrucci)。この結果から、難聴が転倒の危険因子である可能性が高いことがわかる。したがって、難聴の予防や早期対策が、高齢者の転倒リスクの軽減に効果があると言えるだろう。

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