診断がつけば治療法はほとんど自動的に決まる

診断を付ければ次は処方だ。この業界には約束処方という言葉がある。風邪なら○○という処方をし、喘息のゼーゼーがあれば××という処方をするという決め事だ。これをあらかじめ、子どもの体重を2kgごとに計算して電子カルテの中に入れておく。子どもによっては粉末よりもシロップがいいという患者もいるので、約束処方の数は膨大になる。ここが成人の医療との違いであり、大人は体格が少々違っても1日に飲む錠剤の数は変わらない。

こんなことを書くと、医療はオーダーメイドではないのかと、読者は白けるかもしれない。いや、それは誤解である。医療で一番大事なのは診断である。診断がつけば治療法はほとんど自動的に決まる。

極論かもしれないが、例えば小児白血病を考えてみよう。白血病の治療は、全国で統一されたプロトコール(治療の手順)に則って行われる。ちょっと試しに抗がん剤Aを足してみようとか、抗がん剤Bは効いていない印象があるから止めてみようなどということは絶対にしてはいけない。

クリニックで喘息の子どもを診ているときも、治療の仕方は基本的に『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン』に沿って行われている。こうしたプロトコールやガイドラインというのは、科学的根拠の集大成として完成している。処方にさじ加減が必要になるのは、患者が定型的な経過を取らないときや、最初から診断が明確でないケースに限られる。

早く、的確に診断して、処方できるのはいい医者である

約束処方は電子カルテに入れておけば、ワンクリックで処方が終了する。要するに診療が早く終わる。早く終われば患者家族の待ち時間が減る。待ち時間が減れば、家族の負担も減るし、待合室で病気が他の子どもに移る可能性も下がる。ちなみに、うちのクリニックでこれまでに待合室でインフルエンザや新型コロナが広がった例は1件もない。

聴診器とぬいぐるみのイメージ
写真=iStock.com/Pogonici
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ぼくの診察室でこういう光景がよくある。子どもの風邪の診察が終わって、ぼくが「じゃあ、お大事に」と声をかけると、子どもが「はや!」と声を上げるのだ。そう、早いのである。世の中には「3分診療」なんて悪口があるけれど、早く、的確に診断して、処方できるのはいい医者である。なお念のために言っておくと、患者家族から深刻な育児相談やセカンドオピニオン的な相談があるときは、診察時間が30分以上になることもある。