JCで人のために汗を流す無償奉仕の大切さを知る
22年、私は日本青年会議所(日本JC)の会頭を務めさせていただくことになるのですが、JCに参加したのも、父に勧められてのことでした。JCは新しい社会をリードする人材の育成を目的としてアメリカで生まれ、日本でも戦後間もない1949年から、ボランティアや行政改革等、社会的課題の解決に取り組んでいます。会員は20歳から40歳まで、創業者や事業承継者が多く、地域との絆が強いことが特徴です。
父に言われて入会したものの、私は当初、JCの活動にあまり乗り気ではありませんでした。なぜ世のため人のために、自分にとって最も大切なものである時間を使うのか、理解できなかったからです。「何か仕事につながればいいか」くらいの気持ちでした。
ところが、そんな考え方を変えた出来事がありました。12年のある夜、大分県の日田市で大きな水害があったというニュースを知った私は、どこかそれをひとごとに感じていました。
すると電話が鳴ったのです。当時のJCの理事長からで、「日田が大変なことになっている。明日は復興活動に行くぞ」と言い渡されました。
私はそれまで一度もボランティアの経験がなく、災害復旧の手伝いもしたことはありません。正直に言うと嫌でたまらなかったのですが、理事長に逆らうこともできず、翌朝、迎えの車に乗って現地に向かいました。
一面泥に覆われた被災地で、すでに50人ぐらいの若い男女が懸命に復旧作業をしています。作業の途中になって、それがJCのメンバーだと分かりました。泥に漬かった家の中を掃除し、がれきを片付けたり、スコップで泥をのけたりしています。私もその人たちの熱意に巻き込まれるようにして、一緒に復旧作業を手伝いました。
一通り作業を終えて、メンバーたちとねぎらい合っていた時、一組の老夫婦が私たちの方にやってきました。私たちが片付けをしていた家にお住まいの方たちでした。
目深に帽子をかぶったおばあさんは、大粒の涙を流しながら「ありがとう」と言いました。おじいさんは、「君たちのような青年がいればこれからの日本は大丈夫だ」と言ってくれました。
私はものすごく感動し、来ることをためらっていた自分を恥じました。誰かのために一生懸命動くことが、こんなにも充実した体験になるんだと、私はその日、初めて知ったのです。
その後も、私は会社では叱られにくい立場にありましたが、JCではたくさん叱られました。恵まれた立場の2世、3世の後継者ほど、私のような経験をされると、より良いと思います。社長であっても新人扱いされ、世のため人のために奉仕する。それこそが、社長としての器を大きくしてくれます。そしてその器以上に、会社は強く大きくならないと信じています。