「遺留分」が用意できないと苦労する
ここで盲点なのが、「遺留分」と言われる他の相続人の持つ強い権利の存在です。遺留分とは、遺言書があった場合でも、法定相続人に最低限保証される遺産を受け取る権利のことで、遺言書の内容が各法定相続人の法定相続分の2分の1(一部例外あり)を侵害している場合には不足分を遺留分侵害額として請求できるというものです。
この遺留分への備えが不十分だと、長男は遺言書の力で実家を相続しても、他の相続人から遺留分侵害額相当の支払いを請求された時に困ったことになります。長男に現金がなければ、せっかく相続した自宅を売却して支払いをしないといけません。これでは何のための遺言書だったのか意味がありません。
このような遺留分の対策として、①実家を相続する長男以外の兄弟姉妹に対して、少なくとも遺留分相当額の現金を相続させる、②実家を相続する長男が少なくとも遺留分相当額の保険金を受け取れる生命保険を掛ける、といった方法があります。
まとまったお金が手元になく、親の遺産も当てにならなさそうという人もいるかもしれません。その場合は、相続する実家を担保に入れて借入金を利用するといった対策があり得ます。その他にも遺留分を少なくするために、養子縁組をしたり、生前贈与をしたりという方法もありますので、困った時には早めに専門家に相談することをお勧めします。
しかし、いくら対策を万全にしたとしても、特定の1人が遺産を相続すると後にトラブルになることが多いので、その点はしっかりと認識して対応を検討しないといけません。
実家の価値を決める「境界確認書」
相続人をだれにするかを家族で話し合い、遺留分対策などを検討したとしても、注意すべき点はまだあります。ここからは、立地や形状などの特性だけではなく、近隣との人間関係などにより土地の価値が大きく左右されることがある例をご紹介します。
代表的な例としては、お隣さんとの関係が悪く、土地の境界確認書(隣り合う土地所有者間で、双方の土地境界線の位置を取り決めたことを確認する書類)の作成に協力してもらえないような状態です。このような土地境界線が明確でない土地の場合、購入者の不安は強く、需要が減るため評価減となります。
また、土地境界線が確定しないと土地を分割することもできません。例えば60坪ほどの実家の土地を売却する場合、東京都心部ではこの土地を3区画か4区画に分轄して建売りする業者がいるため、分割(分筆)可能なら相続税評価額よりもはるかに良い価格で売却できることが多々あります。しかし、境界確定ができない場合は相続税評価額を下回ったり、最悪の場合は売却不可ということもあります。