社員の能力を引き出せるのはどんな組織なのか。同志社大学教授の太田肇さんは「企業側も働く人も、暗黙のうちに理想的な働き方としてイメージしているものがある。それが“自営型”だ。日本の職場に特有な仕事能力は、自営型でこそ存分に発揮される」という――。

※本稿は、太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

チームワーク
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シリコンバレーで自営業的な働き方→独立へ

アメリカのシリコンバレーで技術系のコンサルタントとして活躍する50代の男性、N氏。新卒で日本の某大手電機メーカーに就職したが、自ら希望してシリコンバレーの拠点に赴任。技術者として勤務し、製品開発をすべて任され業績に連動する報酬が与えられていた。そこへヘッドハンティング会社から声をかけられ、変化を求めて現地の企業へ転職した。その会社でスタートアップへの投資に携わった後、数年前にフリーランスとしてコンサルタントの仕事を始めた。

工業デザイナーのI氏も同じく日本企業からシリコンバレーに派遣され、現地勤務を経て独立した一人だ。一貫して電気製品のデザインに携わってきた彼は、世界各地のグラフィックデザイナー、メカニカルエンジニア、プログラマーなど多様な人たちとネットワークでつながり、テーマごとに必要なメンバーと協力しながら仕事を進めている。仕事場は自宅だったり、カフェだったり、自然のなかだったり、気分よく仕事ができる環境で自由に働く。典型的なノマドワーカーだ。

二人に共通するのは当初、国内の日本的雇用システムのもとで働いていたが、シリコンバレーに移ってきてからは、裁量権の大きな半ば自営業的な働き方ができるようになり、さらにフリーランスすなわち正真正銘の自営業へと自らの意思で転身したことである。そして二人ともいまの働き方に満足していると語る。

個人主導で仕事の範囲も内容も変えられる働き方

もちろん雇用には雇用のよさがあり、フリーランスにはフリーランスのよさがある。仕事をしてキャリアを形成するうえで、また生活するうえでどのような働き方が適しているかを見定めて選択するのもシリコンバレー流だ。

40代のアメリカ人エンジニアのM氏もその一人。彼はアメリカのIT企業でキャリアをスタートさせ、それから大手メーカーに転職した。そこで10年弱働いた後、会社を辞めてフリーランスになった。そして現在は以前と違う業界のメーカーに勤務している。彼は雇用からフリーランス、そしてまた雇用と就業形態が変わるたびに、安定性、責任、裁量の大きさを伸縮させながらキャリアを形成してきた。

ここにあげた三人のキャリアや働き方は、シリコンバレーではとりたてて珍しいわけではなく、むしろ標準的な部類に入る。またI氏のようにフリーランスやスタートアップ企業の社員たちがネットワーク上で新たな組織をつくるのも、シリコンバレーではごく普通に見られるスタイルだ。

いずれにしても、日本でいまはやりのジョブ型とは明らかにベクトルが違う働き方である。ジョブ型は組織主導で仕事の範囲や内容が決まるのに対し、これらのケースでは個人主導で仕事の範囲も内容も変えられていく。その点、ジョブ型とは真逆といってよい。

留意すべき点は、それがシリコンバレーというある意味で特殊な世界でのみ起きている現象ではないということである。