世の中の「トンデモマナー」「謎マナー」はどのように発生するのか。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは「お辞儀印鑑を初めて知ったときは、言葉を失ったくらいの衝撃があった。でも、どんなトンテモマナーも諸説のうちの一つであり、それぞれに発生の背景がある」という――。

※本稿は、西出ひろ子『突然「失礼クリエイター」と呼ばれて』(きなこ出版)の一部を再編集したものです。

印鑑を押す女性の手元
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

インターネットで吹き荒れた炎上マナー

本稿では、実際のところ、どんなマナーが炎上しているのか、マナー関連の炎上事例を紹介しながら、それぞれの内容をマナーの専門家の立場で一つずつ検証してみようと思います。

最初にお断りしておきたいのは、マナーには正解がないということです。これについては本書の第8章で詳しく触れていますが、マナーとはTPPPO(Time=時、Place=場所、Person=人・相手、Position=立場、Occasion=場合)に応じて、そのスタイルは変わっていいものなのです。

ですから、ここでの検証内容も、私個人の見解であり、唯一絶対の答えではないということをご了承ください。

1.「押印するときは上司の印鑑のほうに傾けて押す」?

お辞儀印鑑――。炎上ネタとしてメディアからその真偽のコメントを求められ、初めて私はその存在を知りました。これを聞いたとき、正直、言葉を失ったくらいの衝撃がありました。部下が上司の印鑑に対してお辞儀をするように傾けてハンコを押す、ということが押印のマナーとして存在する、というもの。これにはさすがの私も、「そんなマナー、あるんですか⁉」と、逆に質問をしてしまいました。

聞くところによると、大手都市銀行のどこかの部門がこういうルールをつくり、それが噂になって広がっていったということですが、それも定かではありません。ということで、出所もわからないし、マナーを研究してきた私自身が知らなかったくらいですから、これをマナーとして解釈することは難題です。

そもそもこれはその会社、もしくはその部門に限定されたルールだったのではないでしょうか。ある組織内部で決めたことであれば、他者が意見を差し挟む余地はありません。しかし、明らかに一般化されたマナーとは異なるので、もしだれかがこれをビジネスマナーの決まり事として紹介したなら、世間の批判を浴びることになってもしかたありません。なぜなら、マナーとは人に強要するものではないからです。