役職定年後も、会社で若い人に疎まれないようになるには、どうしたらいいのか。明治大学教授の齋藤孝さんは「雇用延長でかつての上司が組織に残っているだけでも、元部下としてはストレスがたまるもの。若い人にとっては60歳をすぎたら存在自体がパワハラ的なのだと認識するくらいでちょうどいい」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、齋藤孝『60歳からのブッダの言葉』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

指をさして怒る人
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「上から目線」を卒業する

60歳を過ぎると、会社内ではほぼ全員が年下となります。

役職定年前の組織では、年長者として、役職の付いた上司として君臨していたかもしれませんが、役職定年後あるいは雇用延長後は、これまでのような肩書がなくなります。

立場が変わり、以前のような力を持たない状態にもかかわらず、若い人に対して以前とまったく向き合い方が変わらない人がいます。

かつては確かに直属の部下だったかもしれませんが、今や残念ながら向こうの方が第一線として立場も役職も上になっている。これも諸行無常、移り変わるのが理だと知れば、かつての栄光やプライドにしがみつくなど実に空しいことだと理解できるはずです。

関係性が変わったなら、付き合い方も変わって当然でしょう。呼び捨てにしたり、相変わらず上司のように上から目線で高圧的な態度を取っていたら、嫌われるに決まっています。

雇用延長により、かつての上司が自分の組織の一員として残っている。それだけでも元部下としては実にストレスがたまるものです。ブッダ的な生き方としては、立場をわきまえて、元部下たちが仕事をしやすいように、身を引くところは引く。出しゃばらないことが肝要です。

完全に会社を定年退職し引退した人たちも、若い人たちとの接触は意外に多くなると思います。

趣味のサークル活動でも、読書会や勉強会でも、ときには学生など、会社にいたとき以上に年の離れた若者と付き合う機会が生まれます。

基本はまったく同じで、年長者だからといって上から目線で威張らないことです。

そんなつもりなど全くないという人でも、若い人にとっては60歳をすぎたら存在自体がパワハラ的なのだと認識するくらいでちょうどいいのです。

穏やかで上機嫌な60代になる

電話での応対、店先での対応、病院などでのやり取り……年を重ねるほど、相手との年齢差が大きいケースが増えます。

すると、えてして相手の言動に未熟さを感じてしまう。若い人の言葉遣いや対応など、いろいろ気になってイライラしたり、怒りに駆られる場面が増えるように思います。

敬語を正しく使えていない、こちらはただでさえ耳が遠いのに、声が小さくて聞き取れない。よく分からない横文字で説明する……。突っ込みどころ満載で、数え上げればきりがありません。一つひとつに怒っていたら、それこそクレーマーになってしまいそうです。

できるだけ、穏やかで上機嫌な60代でいたいものです。それには、相手を変えるよりも自分が変わった方がはるかに効率的で、早いのです。