妻が、そんな大変な思いをしていたとは
夢中で育児に追われ息子の寝かしつけにも慣れてきた。
息子が1歳になってしばらく経ったある日の深夜、妻から出産に至るまでの迷いを根掘り葉掘り聞いてみると、驚くべき事実を知った。
というか夫婦に会話がなかったわけではないので、断片的には聞いていたのだが、「そんな大変な思いをしていたとは」と、わが鈍感力を呪い、まったく夫というのはなんの役にも立たないなあと痛感したのである。
これから書くことは、大げさに言えば、「息子が産まれることで母体が危険にさらされたことが、じつは母親の命を救っていた」という話である。
徐々に膨張していた子宮筋腫
妻は、今から15年ぐらい前、30代の頃から子宮筋腫があったのだという。
「子宮筋腫があること自体は女性にとって珍しくないんだけど、私の場合はそれが大きくて、徐々に膨張していたのよ。(10年前の)結婚したあたりで6センチはあったかな。年に1回は経過観察をしてくださいと主治医に言われていたの」
なかなか男性には実感が湧かないが、女性全体の約3割には子宮筋腫があると言われる。
子宮筋腫は良性の腫瘍なので、それ自体が悪さをすることはなく、健康上問題ない人も多い。また、年を重ねると閉経とともに筋腫は縮んでいく場合が多いそうだ。
ただ、大きいという事実は問題だった。普通に考えてお腹の中に6センチ大のものがあったら、相当、周囲の臓器を圧迫するだろうなあと想像する。
ちなみに、私は30代のときに胆石に悩まされ胆のう摘出の手術を受けたところ、3センチほどの石がコロンと出てきた。これが出るまでは七転八倒の痛みで、よく「出産と同じぐらいの痛み」とたとえられる。妻はそうした痛みはなかったそうだが、腫瘍が大きくなっていく不安は想像がつかない。
6センチの筋腫が10センチに
で、この子宮筋腫というのは、そのものは良性と書いたものの、女性の体への影響は少なくない。2、3センチ大の筋腫でも、場所によっては重い生理痛や生理不順などの症状をもたらすという。さらに筋腫が大きくなると、「妊娠しにくくなる」ケースもあるという。
そんなわけで、結婚当初から「私は、子どもができないかもしれない。それでもいいですか」と言われ、「もちろん、まったく問題ないよ」というような会話をした記憶もうっすらと蘇った(うっすらで、すみません)。
妻の場合、筋腫の数が多いのも心配ごとだったという。
「大きいのが1つあるうえに、私の場合は“多発性”で、ほかに小さいのも2つ3つ育ってた。女性ホルモンで育ってしまうんですって」
経過観察を続けるうちに、6センチだった大きい筋腫が5年前には10センチにまで育っていた。