現代のビジネスのやりとりは、メールとチャットが中心だ。顔の見えない相手とも、文書だけで気持ちを伝え合い、信頼関係を築くことが求められる。国立国語研究所で日本語を研究する石黒圭さんは「相手との信頼構築のカギは副詞。副詞の使い方で、ビジネスパートナーとの関係が良好になる」という――。

※本稿は、石黒圭『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)の一部を再編集・加筆したものです。

パソコンでメールをチェックする女性
写真=iStock.com/Sitthiphong
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副詞の使い方一つで印象が変わる

石黒圭『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)
石黒圭『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)

副詞というと、よくわからない地味な品詞というイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、そんな人でも、じつは日々の生活の中で、驚くほどたくさんの副詞を使っています。「やっぱり」「けっこう」「まあ」「ちょっと」「じつは」「なるほど」「本当に」等々……。

名詞、動詞、形容詞は、SVOCの五文型を構成し、文の情報を伝える要素です。一方、副詞は、SVOCの要素にはなりませんが、単なる添え物ではありません。文の情報よりも、書き手の気持ちを伝える要素で、読み手はむしろ副詞に敏感に反応します。選択に成功すれば読み手の共感を得られ、失敗すると読み手の感情を逆なでする「毒にも薬にもなる」品詞、それが副詞です。

文章を書く上でとくに大事なのが、読み手に配慮する「大人の副詞」です。「大人の副詞」は使い方一つで、読み手に与える印象が大きく変わるものです。ここでは大事な20の「大人の副詞」を見ていくことにしましょう。

「わざわざ」「せっかく」で労をねぎらう

感謝の気持ちを表す「大人の副詞」からまずは考えます。正面切って「ありがとう」と言うだけが、感謝の表し方ではありません。相手の手間や気遣いを肯定的に評価する「わざわざ」「せっかく」のような副詞を使うことで、「ありがとう」の気持ちがより効果的に伝わります。人間関係における配慮を示す表現として、とくに手紙やメールで力を発揮しますので、頭に入れておきたい副詞です。たとえば、

悪天候のなか、わざわざ会場まで足をお運びくださり、心から感謝申し上げます。

とすれば、会場まで足を運ぶという行為に副詞「わざわざ」がつくことで、「そこまで苦労をして」というねぎらいが加わり、それが感謝の気持ちとして伝わります。

また、誘ってくれた相手の誘いを断る謝罪の場合、

せっかくお声がけくださったのに、前向きなご返事ができず、申し訳ありません。

とすれば、声をかけるという行為に副詞「せっかく」をつけることで、「心を砕いて貴重な機会を用意してくれた」という評価が加わり、期待に応えられない申し訳なさがより明確に伝わります。