お金と幸福度の関係について、定説を覆す研究が発表された。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「これまでの研究では幸福度は年収が7.5万ドルで頭打ちとされてきた。ところが今年、幸福度が低いグループの人々では、年収がある一定のところで幸福度が頭打ちになるが、幸福度が高いグループの人々では、年収の増加とともに幸福度の上昇傾向がさらに強まるという研究が発表され注目されている」という――。
スクリーン上のビジネスグラフ
写真=iStock.com/fatido
※写真はイメージです

幸せになるためにお金はどの程度必要なのか

生きていくうえで「幸せになりたい」と願うのは自然なことです。このため、多くの人が「幸せになるにはどうすればいいのか」という点に興味・関心を持つでしょう。

さまざまな要因が幸せに影響すると考えられますが、中でも「お金」は幸せに大きな影響を及ぼすと考えられます。

お金がなく、衣食住がままならなければ幸せを実感するのは難しいでしょう。逆に、お金が十分にあり、自分の欲しいものを買えて贅沢な暮らしができれば、誰しもが幸せを実感できると予想されます。

このように「お金がある=幸せ」という関係がありそうですが、冷静になって考えると、いくつかの疑問が出てきます。まず、どの程度お金があれば幸せを実感できるのでしょうか。年収でみた場合、500万円でしょうか。それとも1000万円でしょうか。

また、持っている(or稼げる)お金が増えるほど、幸せも同じく高まっていくのでしょうか。もしこの関係が成立する場合、一部の富裕層の幸福度はかなり高くなっていると予想されます。

今回はこのようなお金と幸せに関する疑問に答えていきたいと思います。実は最近、お金と幸せの関係について、アメリカで新たな研究結果が公表され、注目が集まっています。

年収が7.5万ドル=約1000万円で幸福度は頭打ち説

年収と幸福度に関しては、2010年に公表された二人の研究者による非常に有名な論文があります(*1)

著者の一人はプリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授であり、2002年に行動経済学創設の貢献によってノーベル経済学賞を受賞しています。もう一人の著者はプリンストン大学のアンガス・ディートン教授であり、彼も「消費、貧困、福祉」に関する分析の貢献で2015年にノーベル経済学賞を受賞しています。

二人のノーベル経済学賞受賞者による分析結果は、非常に興味深いものでした。

彼らはGallup社が実施する1000人の米国居住者を対象とした調査を用い、年収と幸福度の関係を分析した結果、「年収が6万ドル~9万ドル以上になっても幸福度が上昇しないこと」を明らかにしたのです。

彼らの研究では年収をいくつかのカテゴリーで計測しており、6万ドル~9万ドルという年収カテゴリー以上になっても、幸福度が伸びないことを示しました。ちなみに9万ドル以上の年収カテゴリーは9万ドル~12万ドル、12万ドル以上であり、分析対象となったサンプルも豊富にありました。

カーネマン名誉教授らの分析結果は、「幸せになるには7.5万ドル(6万ドルと9万ドルの中間の値)まで稼げばいい」という明確なメッセージとなり、その後の研究に大きな影響をもたらしました。

7.5万ドルというと、現在の為替レートでは約1000万円です。年収が1000万円というと確かにお金持ちというイメージがあり、納得感があります。

しかし、この研究結果は後に覆されることになります。