既存省庁に指示を出せるスーパー官庁ではない
一方で、こども家庭庁の初代長官には厚労省の子ども家庭局長や官房長を務めた渡辺由美子氏が就任した。渡辺氏は1988年に厚生省に入り、児童家庭局母子福祉課を振り出しに、社会・援護局や年金局、保健局、老健局などを歩いてきた厚生畑の官僚だ。1987年入省の大島一博厚労事務次官の1期後輩である。役所は基本的に年功序列だから後輩の長官が先輩の次官よりも格上ということはまずない。
大臣にしてもそうだ。小倉氏は衆議院当選4回の41歳。2022年8月の岸田内閣改造で初入閣したばかりだ。かたや厚労大臣の加藤勝信氏は当選7回の67歳で、官房長官も務め、厚労大臣は3回目という大ベテランで格が違う。
つまり、既存省庁に指示を出せるスーパー官庁ではなく、厚労省の指示には逆らえない第2厚労省の色彩が強い。しかも内閣府に所管があれば「政治主導」で官邸が強い権限を示すこともできたが、外局として独立してしまうと官邸のハンドリングは弱まることになりかねない。厚労省からすれば権限とポストを拡大したということになるのだろう。
「幼保一元化」にまったく踏み込んでいない非力さ
こども家庭庁の非力さを予想させるのは「幼保一元化」にまったく踏み込んでいない点だ。文科省所管の幼稚園と、厚労省所管の保育園を統合していくことを狙って「認定こども園」を新たに作ったが、役所の所管争いから一元化は進まず、内閣府所管の「認定こども園」と共に「三元化」するという冗談のような構図になった。今回の小倉大臣の「試案」では、「幼保一元化」という言葉は一カ所も出てこない。
少子化が進む中で幼稚園は経営悪化から閉園するところが増えている。今後、保育園や認定こども園と共に子育てインフラとしてどう整備していくのか重要な論点だが、あえて省益に関わるところは触れていない、ということだろうか。
そもそも小倉氏の務める少子化担当大臣は、歴代内閣が「最軽量」ポストとして軽んじてきたとみられている。2007年に第1次安倍改造内閣で上川陽子氏が就いて以来、25年間で21人が大臣になった。3年あまり続いた民主党政権では何と9人が少子化担当相になった。腰を据えて少子化対策に取り組んできたとは到底言えない状況なのだ。
小倉大臣の「試案」でも「過去30年という流れの中で見れば、その政策領域の拡充や安定財源の確保に伴い、待機児童が大きく減少するなど一定の成果はあったものの、少子化傾向には歯止めがかかっていない状況にある」と成果が乏しかったことを率直に認めている。だからこそ、本来は、強力な権限を持つスーパー官庁になるべきなのだ。