障害はなくならないが、理解することはできる
【加藤】もっとも、BさんのASDの特性そのものがすっかりなくなったわけではないので、今後なにか、思いも寄らない“事件”が起きないとも限りません。しかし、妻もBさんとの長い結婚生活を経て、ASDの特性を十分把握し、どのような事態がBさんを混乱させるのか、どうすればBさんの怒りがおさまるのかといったノウハウは、ある程度心得ています。ですから、大抵の“事件”なら乗り越えることができるでしょう。
Bさん夫婦は、確かに一般的な夫婦関係とは少し違うかもしれませんが、お互いが適度に距離をおき、干渉しすぎず、落としどころを探りながら、うまく関係を保っています。
治らないが、「困り感」は解消できる
――発達障害ではどのような治療を行うのでしょうか。
【加藤】そもそも発達障害は脳の機能障害なので、完治を目指す治療は困難です。このため障害を抱えながらも、生きやすくなるための取り組みを行っています。私の診療科で主に行っているのはデイケアです。
デイケアでは、ASDやADHDなどの障害に応じて、同じ悩みを持つ仲間と集まり、悩みを共有するプログラムを受けます。デイケアは昼食をはさむ6時間のプログラムですが、半分の3時間で取り組むショートケアもあります。デイケアもショートケアも、ASDの人向け、ADHDの人向け、就労を目ざしている人向けなど、個人の特性(属性)や要望に応じたプログラムが用意されています。そうしたプログラムにより、脳の機能障害自体は治りませんが、発達障害を持っていることによって生じる本人の生きづらさや、周囲の人の「困り感」をある程度解消できることが分かってきました。
これまではASDの特徴として「凝集性」がないということが指摘されてきました。シンプルにいえば、複数人で群れることを好まない、ということです。ですが、デイケアを行うようになってから、そうとも言い切れない側面が見えてきました。