なぜシマウマは胃潰瘍にならないのか?

ストレスに意外なほど脆弱ぜいじゃくな私たち人間ですが、動物はどうなのでしょうか?

ストレス学者のサポルスキー(Robert M.Sapolsky)の著書に、『なぜシマウマは胃潰瘍にならないか』(シュプリンガー・フェアラーク東京)というものがあります。

本のタイトルが示すように、動物には、いわゆる人間のようなトラウマはない、と考えられています。例えば、シマウマなどはライオンに襲われると、その瞬間は血圧を上げ、ストレスホルモンを出し、一目散に逃げます。しかし、危機を脱すれば、ストレス値は下がります。もしかしたらまた襲われるかも? などと考えてくよくよしたり、フラッシュバックに襲われることはありません。

人間とは違って動物が特別というわけではありません。哺乳類として私たちと同じようなストレス処理のプロセスを働かせています。ただ異なる点は、その場でサッとストレスを処理して、平常な状態に戻ること、あれこれと想像を働かせたりしない、ということです。

シマウマのストレス処理のあり方は、ストレス学者に言わせれば、理想的といえます。対して、私たち人間は知能が発達した代償として、「また、同じことが起こるのでは?」といった想像や、「もっとこうしていれば……」などと後悔にとらわれてしまいます。ストレスは物理的な脅威が目の前になく想像しただけでも起こります。高度な精神の営みは、ストレスを慢性化、長期化させてしまうのです。

日本の葬儀
写真=iStock.com/Yuuji
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生物は想定外のストレスには弱い

死に瀕するようなストレスにも驚くほど強い動物も、意図せずストレスが長引くような状況では、調子を崩してしまいます。

例えば、ライオンのいる環境で生息するキリンですが、音に敏感で神経質なため飼育が難しく、動物園でもちょっとしたノイズなどストレスが続くと健康を害したりすることがあります。馬も敏感で知られ、例えば競走馬が遠征のためにコンテナに詰めて運ばれるストレスで思うようなパフォーマンスを発揮できない、ということを耳にすることがあります。