生物は持続するストレスには最適化されていない

ストレス理論の祖であるハンス・セリエがストレスを発見したきっかけも、実は、そんな意図せずストレスが持続する状況が偶然生まれたからでした。

今ではストレス理論で名が残る大学者のセリエも、研究用のラットの扱いがあまり上手ではなかったそうです。セリエはラットをうまく捕まえたりすることができずに、ずっと追い回したり、落としたりしていたそうです。するとあるとき、ラットの消化器に潰瘍ができて副腎が膨張していることに気がついたのです。

当初セリエは、ラットに変異をもたらす未知のホルモンを発見したと喜んでいたようですが、未知のホルモンではないことを知ると、とても落ち込んだそうです。しかし、後に未知のホルモン以上の大きな発見をしたことがわかります。ラットに異変をもたらしたのは「ストレス」と呼ばれる負荷だったのです。セリエの下手な扱いがラットに想定外の負荷をもたらし、ストレスの発見につながったのです。

こうしたことからわかるのは、ストレスに対処する生体のしくみとは、基本的には短期のストレスへの対処を想定しているということです。持続的なストレスには短期の対処を繰り返すことになり大変非効率で、身体にも負荷がかかります。潰瘍ができ、臓器も疲弊してしまいます。どうやら生物の体は持続するストレスに最適に運用されるようにはできていないようなのです。

災害に遭遇しても大半の人はPTSDにならず回復するが…

人間も短期の危機には、「火事場の馬鹿力」という言葉もあるように意外に強靭きょうじんな力を発揮します。例えば、被災直後は「英雄期」、「ハネムーン期」とされるように、勇気ある行動が取れたり、強い連帯を示したりします。

また、災害などの大きなストレスに遭遇しても大半の人はPTSDにならずに自然と回復していくことも知られています。その後、ストレスが持続したり、適切なサポートがない場合に鬱などに陥っていくようです。

疲れているビジネスパーソン
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