子どもの悩みの元凶は親自身だ

20年ほど前から「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開いて全国から若い子を集め、麻雀を通じて人としての道を指導している。集まる子の中には、社会に居場所がなかったニートや引きこもりもいて、その多くが「親なんかどうでもいい」「この世から消えろ」「殺したい」という悩みを抱える。親次第で子どもがそうなってしまうことはザラにある。

雀鬼会会長
桜井章一

東京都生まれ。大学時代に麻雀と出合う。1960年頃から約20年間、「代打ち」として無敗を誇り、「雀鬼」の異名を取る。現役引退後、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通じ後進を指導する「雀鬼会」を主宰。現在は子4人、孫5人を持つ。

そういう子の親は、普段から損得勘定ばかりで動くし、子どものことですら損得で見る。その場では得をするかもしれないが、子はそんな親の姿にどこかで汚らしさを感じている。小さい頃はうまく口に出しては言えないが、反抗期を通り過ぎて体が大きくなった頃に「俺を育てるのも損得かよ」と憤る気持ちがはっきり表に出てくる。小・中学生だけでなく、20代の大人にもそういう子はいる。

子どもの悩みの解決法をあれこれいう以前に、ここまで思い詰めるほど子どもを悩ませる元凶は、ほかならぬ親自身なのだ。子どもが悲鳴を上げているのに、それすら気付かず、忙しさや会社の中での立場を理由に、社会に合わせた形だけの親を装う輩が大勢いる。なぜ気付かないのか。それは親があれこれ考えるからだ。考える度量が多くなると、残念ながらそこには計算高いとかずる賢いとか、悪いもののほうが多く入る。

逆に、子どもは考えない。だから「何か面白そうだ」と気付き、いたずらしたり悪いものに興味を持ったりする。気付くことに関しては、子どもは大人を凌駕する。考えるのはあまりよくないことだとどこかでわかっているからだ。悩みはあれこれ考えた先に生まれる。「これをやったらお父さんに怒られるかな。だからやめとこうかな」と考えることは本心を曲げることであり、長じて自分を売るようになる。それが大人だ。

何かを得るために、知識や技術、能力を子に与える。それが義務を超えた権利だと考えて頑張る親が多い。しかし、子が本当に求めていることはそんなことではなく、自分を守るために親がいつでも体を張れるかどうかだ。親が体を張る場面は、生きている限り必ず来る。オレたちは他の生き物の体を奪って生きてるのだから。いざそういう場面に直面したとき、親は逃げてはいけない。お金などで解決したら、子どもは後で物凄いショックを受けるだろう。

オレが1年の中で一番嬉しい日は「父の日」だ。自分の子どもだけでなく、雀鬼会の血を分けない子たちが集まって「僕らのお父さん」として認めてくれる。オレの生き甲斐だ。父親としての時代を経て今、じいさんになるまでの連続した姿勢とか生き様を見て、検定証をくれているようなものだろうか。オレが皆に何かノウハウを与えたからではない。オレが投げた「きっかけ」という名のボールを受けた彼らが、己のボールとして投げ返すことができたからだ。

※すべて雑誌掲載当時

(プレジデント編集部 西川修一=構成 若杉憲司、小原孝博=撮影)
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