ダイバーシティ推進の失敗例に学ぶ

ひとつは「数値目標至上主義」型。ある企業では、女性管理職比率の数値目標を達成しようとして、急激に女性登用を進めました。その結果、登用された本人が管理職を降りたい、というケースが出てきたのです。これを放置すると、最悪の場合はうつ病などのメンタル不調を招きかねません。

この施策の問題点は、勤続年数を登用基準にしたこと、本人にリーダー職の経験や管理職になりたいという意識がなかったこと、そして本人が男性管理職の仲間に入れず孤立してしまったこと、の3つ。

「これらを防ぐためには、登用前にまず本人にマネジメント職に就く意欲があるかどうかを確認しておくことが大事です。また、早い段階でのキャリア教育や、女性管理職同士で情報交換できるようなネットワークの構築支援も必要でしょう」

もうひとつの失敗例は「女性だけのプロジェクト」。あるメーカーでは、上司推薦によって各部署から一般職女性を招集し、“女性ならではの感性を生かした戦略チーム”を立ち上げました。しかし、特に成果がないまま1年後に解散。参加メンバーは肩身の狭い思いをしたそうです。

事前に本人の意思を聞かなかったため適正のある人材を選抜できていなかった、メンバー全員がプロジェクトに必要な教育を受けていなかった、通常業務と兼務だったため取り組みが中途半端になってしまった等が挙げられます。宮原さんは、この施策が失敗に終わった理由を丁寧に解説。

そして対処方法として、本人の意思を確認しやる気のある人を選定する、上司は「勝手にやって」ではなくこのプロジェクトへの参加についても積極的に関わる必要性、またプロジェクトが軌道に乗るまではベテラン男性社員がアドバイザー的に関与し、女性活躍支援という本来の目的達成を図る、といったポイントを挙げました。

ここまでの話を聞くと、女性管理職を自然な形で増やしていくには、育休中や時短勤務中の女性本人が「家族やベビーシッターなどの外部機関の協力も得ながら、できるだけ早くフルタイム勤務に戻りたい」と思える環境づくりが重要と言えそうです。しかし、政府は子育て中の時短勤務者向けに新たな現金給付制度の創設を検討中。宮原さんは「これで時短勤務者が急激に増えたら、カバーする人たちの立場やご本人のキャリアはどうなるのか」と疑問を呈し、こう続けました。

「女性のキャリア支援には男性の家事育児参画が必須です。男性育休取得率も女性管理職比率も高い社会にするためには、今後の育児・介護休業制度はどうあるべきか。単なるバラマキではなく、長い目で見た支援が必要でしょう。海外では夫婦で子育てと仕事をしっかり両立しています。なぜ日本だけ、妻側に育児の負担が偏るのか、この後のディスカッションで皆さんと考えていきたいと思います」

手前から東レ経営研究所ダイバーシティ&WLB推進部長 宮原 淳二氏、木下 明子プレジデント ウーマン編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)