「芸術なんかで生活が成り立つわけがない」

卓也さんは、高校は進学校と言われる学校に進学し、両親も将来を期待していました。本人は美術が好きで、美術系の学校に進学を希望していました。両親に打ち明けると、父親からは言下に否定されたそうです。

「芸術なんかで生活が成り立つわけがない。ちゃんとした学部に行って、きちんと就職しなさい」

父親は一般的なビジネスマンですので、おそらく先入観があったのでしょう。結局、卓也さんは希望をあきらめ、就職に向いた大学の経済学部に進学しました。しかし、進学後も美術をあきらめた後悔がぬぐえません。美術部に加入して活動するとか、うまく切り替えができればよかったのですが、大学の授業に目的を見いだせずに、徐々に大学へ行かなくなり、留年。挙句の果てには退学となってしまいました。その後はアルバイトなどをいくつかしましたが、長続きせず、最近は無職の状況が続いてしまっているそうです。

父親からは「収入がないと生きていけない」と、たびたび叱責しっせきされています。本人も将来が心配で、インターネットで将来の家計状況を診断してくれるところを探したそうです。私は伺った情報を基に、シミュレーションしました。親亡き後も卓也さんが生活していけるかを分析します。

相談者の家族構成
・相談者(ひきこもり本人):佐藤卓也(仮名)さん:31歳(無職) 親と同居
・父親:59歳(会社員) 収入560万円
・母親:58歳(パート勤務) 収入84万円

資産
・預貯金:約1000万円
・自宅:戸建て持ち家

結果は、けっして余裕はありませんが、なんとか卓也さんが85歳となるまでは貯蓄を維持していけそうです。預貯金は現状1000万円ですが、来年、父親の退職金2000万円が入る予定です。その後、父親は月20万円の収入の仕事をして、65歳からは年金(父親年195万円、母親年78万円)が主な収入源となり、両親他界後は、年金78万円で足りない分は預貯金を少しずつ切り崩していくことになりますが、両親が自宅を保有していることと、卓也さんが一人っ子であることが幸いしました。シミュレーションの結果は提案書としてまとめ、郵送しました。

【図表1】将来の家計の状況
図表=筆者作成

後日、1本の電話がかかってきました。