金太郎飴ではなく、尖った選手がいるチームを作りたい

実は、原監督は指導スタイルをリニューアルしつつある。決められたマニュアルのなかで強化するのではなく、選手個々に任せる部分を増やしているのだ。

「最後の1週間を切ったら、各々の調整、各々の力。事細かな調整はあえてしていません」と原監督。白石の調整失敗は個人の責任という認識のようだ。他の選手を2区に起用する選択肢もあったはずだが、白石を2区に配置した自身の責任については言及しなかった。

「学生長距離界は指導者が熱心なために記録が上がっています。でも、マニュアルのなかで踊らされていて、面白くない文化ができつつある。そのなかでわれわれは自ら立つ『自立』から、自ら律する『自律』に変革をしております。それをやるために選手は監督の考えを理解しなきゃいけないし、私自身もすぐに結果が出なくても、我慢しなきゃいけない部分もある。金太郎飴のチームではなく、尖った選手、個性豊かな選手がいるチームを作っていきたいんです」

そう話す原監督をうならせた選手がいる。1区の目片と7区の近藤幸太郎(4年)だ。

「目片には突っ込んでいけという指示は一切していません。自分で考えて、序盤から抜け出しました。今までの青学大にああいう走りをした選手はいなかった。近藤も予想以上のハイペースで飛ばしましたから」と原監督。1区・目片は三大駅伝初出場の2区・白石を心配したのか、ライバル・駒大からリードを奪うべく、攻めの走りを見せた。7区の近藤は駒大の絶対的エース・田澤廉(4年)との差を14秒で食い止めて、自身も従来の区間記録を29秒上回った。

目片と近藤のパフォーマンスは原監督から見えれば“尖った走り”になったようだ。しかし、駒大との勝負は完敗した。

画像=「駒澤大学陸上競技部」HPより
画像=「駒澤大学陸上競技部」HPより

今季最終決戦となる箱根駅伝に向けてはどうなのか。

青学大は箱根駅伝に向けたピーキングには定評のあるチームだ。2015年に初優勝を飾って以来、4連覇を含む6度の栄冠をつかんでいる。ただ、その反面、気になるのが現役・OBともに五輪・世界選手権の日本代表になった長距離選手は出ていないことだ。

「箱根駅伝に向けては、決して悲観はしていません。駅伝は先頭(を走るチーム)が有利ですけど、(全日本では)2区で2分以上も引き離されながら、3~7区は駒大とほぼ互角でした。山上りと山下りには自信があるので、箱根駅伝ではこのような惨敗はしませんよ。今度は勝ちにいきます!」

原監督は語気を強めたが、指導スタイルの変更でチームはどう変わっていくかは不透明である。これまでの青学大は尖った選手がいなかったことが功を奏して箱根で勝てたという面は否めない。今回の原監督の“変節”がチームにどんな作用を及ぼすか。青学大“黄金時代”の終わりの始まりなのか、それとも“新たな黄金時代”のスタートとなるのか、見ものである。