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第12代世界銀行総裁(7月就任)Jim Yong Kimジム・ヨン・キム)
1959年、ソウル生まれ。5歳で両親とともに米アイオワ州へ移住し、ハーバード大学で医学と人類学の博士号を取得。2004年に世界保健機関(WHO)のエイズ対策部門局長に就任。ハーバード大学教授などを経て09年、ダートマス大学総長。


 

70年近く、WASP的米国人が独占していた世界銀行総裁の座に、初めての総裁選挙を経て選出されたアジア系米国人。金融経済の門外漢が、対抗馬である現役ナイジェリア財務相で世銀副総裁を兼任する経済学者、オコンジョ・イウェアラ女史を退けて当選したのは、米国籍のおかげに相違ない。冷ややかに言えば米国が世銀総裁ポストを死守したといえるが、アングロサクソンが支配する世界金融の一角にアジア人が立ったことの意義は小さくない。

ソウルに生まれ、5歳のときに米国アイオワ州マスカティーン市に移住した。父はアイオワ大学で歯科学の教鞭をとり、母も哲学のPhDを持つ学者一家。アイオワ大学を経てブラウン大学を卒業。ハーバード大学で医学、人類学の博士号を取得した。

彼の輝く実績の一つは、ポール・ファーマー氏とともにパートナーズ・イン・ヘルス(PIH、貧困地域の基礎医療支援NPO)を創設したことだ。途上国の貧困地域にはびこっていたほかの偽善的支援と一線を画し、透明性と実質効果の高い医療支援に取り組んだ。途上国の貧困と搾取の現状をよく知り、その構造にメスを入れる清廉さと行動力を併せ持つ。2009年からはダートマス大学総長として、学内抵抗勢力を抑えて大学の財政改革を断行した手腕も評価されている。

現在の世界的貧富の格差が、世銀とIMFに象徴される先進国マネーによる途上国経済破壊の結果であるという批判は、ある意味当たっている。世銀の使命はもう終わったという声も。総裁の受諾演説で「途上国の声を育てる努力をする」とアジア人の顔で約束した。医師の良心で金融家の偽善を暴き、アジア人の視点で構造改革を断行できる世銀の救世主となることが、米国人たることよりも期待されている。

(PANA=写真)