もっともらしい数字こそ疑え!

鈴木敏文氏はトーハンの出版科学研究所時代、統計学の勉強にも力を入れたため、数字にもめっぽう強い。例え話の中にも数字を巧みに取り入れ、説得力を高める、と同時に相手を飽きさせない。

鈴木敏文●セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO。1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設して日本一の小売業に育てる。2005年セブン&アイ・ホールディングスを設立する。

例えば、「今は衝動買いの時代」が鈴木氏の持論だが、これをいかに相手に理解させ、必要な対応を取らせるか。「商品のアイテム数を絞り込み、その分、単品のフェースを思い切り広く取れば、顧客の心理を刺激できる」と説明しても、それだけではなかなか相手の行動を引き起こせない。そこで、数字を使った例え話をする。

「例えば、アジフライが100枚並んだ売り場と20枚並んだ売り場のどちらが早く売り切れるでしょうか。20枚のほうのように思えますが、そうではなく100枚のほうです。これが衝動買いの心理です。

顧客は“こんなに多く並んでいるのだからおいしいに違いない”“みんな買っていそうだから自分も買ってみよう”と“選ぶ理由”を直感して手を伸ばすのです」

また、顧客にとって「選ぶ理由」が直感できることの大切さを説くときは、こんな例えを使う。

「例えば、100グラム700円ぐらいの牛肉が売れ筋だからと、その価格帯だけ並んでいると、顧客は高いと感じ、あまり購買意欲をそそられません。ここに500円と700円の牛肉を並べると、“500円のは値段は安いけれど、700円のほうが質はよさそうだし、700円なら1000円より手ごろな値段だ”と“選ぶ理由”を直感して買おうと思うようになります。衝動買いの時代に大切なのは、顧客に対して“選ぶ理由”が提供できていることです」