被害妻は、至らない自分をどうにかしようと努力する。ところが、モラ夫は「俺を怒らせるお前が悪い」と非難するので、被害妻はモラ夫が怒らないようにと先回りして、自らの言動を規制するようになる。だが、モラ夫は怒りたいときに怒るのだ。ゆえに、被害妻からすると「どこに地雷が埋まっているかわからない」状態になり、怯えながら日々を送ることになる。

「優しかった彼」が豹変してしまう

日本社会のモラ文化は根が深く、容易には変わらないように見える。他方、変化の兆しも見受けられる。

大貫憲介・榎本まみ『私、夫が嫌いです モラ夫バスターが教える“なぜかツライ”関係から抜け出す方法 』(日本法令)
大貫憲介・榎本まみ『私、夫が嫌いです モラ夫バスターが教える“なぜかツライ”関係から抜け出す方法』(日本法令)

生涯未婚率が上昇し、少子高齢化が進み、「結婚は幸福」との前提が崩れ始めている。「よほど気が合うとか、いい人でない限り、結婚は考えない」という若者が増えているのは、いまさら指摘するまでもないだろう。

ある男性は、交際していた頃はとても優しく、リベラルを装っていた。ところが新婚旅行の飛行機の中で、「今日から俺が主人だからな」と宣言し、妻に対して突如いばるようになった。妻は新婚旅行を終えて帰国後、離婚のために私の事務所を訪れた。入籍、同居、結婚式などは、モラスイッチが入る典型的な出来事である。妻は交際時の彼との違いに驚き、逃げ出すことがある。成田離婚、スピード離婚と呼ばれる類型である。

一般的には、男女の些細な行き違いが離婚にまで発展したかのように説明されたり、妻の我慢が足りないかのように言われることもある。しかし、離婚相談を受ける弁護士としては、少なくとも法律相談に来る成田離婚(スピード離婚)は、到底「些細な行き違い」などではない。交際時には優しかった彼が、結婚式を挙げた途端、「命令し、服従を求めるご主人様」として立ち塞がったなら、逃げ出すことは決して不合理とはいえない。

モラ結婚から逃げ出すのは、若い女性だけではない。「子には父親が必要」「離婚は経済的に心配」といった思いから我慢してきた熟年女性が、子どもが育ち上がるのを待って離婚する事例は決して少なくない。

密かに離婚に憧れつつ踏み切れないでいるという方を含めれば、日本の多くの女性は、心の中では夫を既に切り捨てているのかもしれない。

大貫 憲介(おおぬき・けんすけ)
弁護士

1959年生まれ。1978年International School of Bangkok卒業。1982年に上智大学法学部法律学科卒業、1989年弁護士登録。1992年に独立し、さつき法律事務所を開設。外国人を当事者とする案件、離婚案件などを含む一般民事事件を中心に弁護士業務を行う。2015年ごろからTwitter(@SatsukiLaw)でモラ夫の生態についてツイートしている。2018年9月からは、4コマ漫画「モラ夫バスター」を週1本ペースで掲載。

榎本 まみ(えのもと・まみ)
漫画家

2012年文藝春秋より『督促OL修行日記』でデビュー。コールセンターで働きながら漫画やコラムの執筆を行っている。著書に『督促OL業務日誌』(メディアファクトリー)、『督促OLコールセンターお仕事ガイド』(リックテレコム)、『モラニゲ~モラハラ夫から逃げた妻たち』(飛鳥新社)など。