「私は約17年勤務しましたが、同時期に24年間、派遣で勤めていた人も雇い止めを受けました。物を捨てるように、長年勤続の派遣を切っていく、会社のやり口をまざまざと見た思いです」
自分の意思とは関係なく、退職金もなく裸で社会に放り出される。毎月、雇用保険を払っていたのに失業後、ハローワークで、「あなたのような仕事には使えない」と言われた。雇い止めとはそういうことだ。しかも50歳を過ぎれば、派遣元は新たな派遣先を紹介しないということも、派遣の世界での常識だった。58歳という年齢ゆえ、照子さんがいくら粘っても、次の派遣先の紹介はなされなかった。
「元派遣労働者・シングルマザー」で国政に殴り込み
照子さんは派遣ユニオンに加入、矛盾だらけの状況と闘うことを決意する。「れいわ新選組」に合流する流れが、ここにくっきりと見えてくる。
照子さんは女性労働問題研究会の会員として、派遣労働や女性が低賃金に置かれている構造についての論考を発表するなど、研究活動も行っている。
そして、「元派遣労働者・シングルマザー」という当事者として、国政に殴り込みをかけた2019年夏、「庶民による庶民のための政治」を訴えた(2022年2月、れいわ新選組から立憲民主党に移籍。4月の補選で練馬区議会議員に当選した)。
照子さんは決して、「元シングルマザー」とは名乗らない。確かに、子育ては終わった。しかし……。
「まだ息子の教育ローンを返し切れていないこともありますが、貧困の世代間連鎖が現に起きているわけです。子どもがいてくれて頼りになる部分と、そういうプラスマイナス含めて、私にはシングルマザーという当事者性が拭えないものとして色濃くある。だから、シングルマザー当事者として闘っていきます」
目指すのは自己責任論で弱者をバッシングするのではなく、誰もが生きやすい社会だ。この照子さんの活動は既存にはない、新たな取り組みとなるだろう。それは、私たちシングルマザーにとって間違いなく、一つの確かな希望だ。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。