※本稿は、黒川祥子『シングルマザー、その後』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
世代間で貧困の連鎖が起きている「貧困の総合商社」
渡辺照子さん(60歳・当時)へのインタビューが実現したのは2020年1月末だった。“れいわカラー”のピンクを差し色にしたシンプルな服装、飾らない笑顔があたたかい。
照子さんは現在、90歳になる認知症の母親と、新宿区にある実家で暮らしている。
「賃貸なら、とても住めないような場所ですが持ち家なので、何とか。ただ、バブル期から地主に立ち退きを迫られています。でも土地を旧借地権で借りているので、法務局に地代を供託すれば、追い出されることはないんです。ただし、上物が壊れると借地権が消失するから、ひやひやです。古い家ですから」
39歳の息子と36歳の娘は、それぞれ埼玉県で暮らしている。息子は単身の派遣労働者、娘は介護職の正規社員と結婚し、自身は銀行の契約社員として働いている。二人が埼玉に住んでいるのは、都内より家賃が安いためだ。
娘夫婦は、子どもを持たないという選択をした。共働きでギリギリの生活のため、子どもを養育する費用が捻出できないからだった。
「娘から、『お母さん、ごめんね。孫の顔を見せてあげることができない』と言われています。養育できる見通しが立たないからと。息子に至っては、結婚できないですね。できる感じがしないです。だから、私が“貧困の総合商社”と言うのは、自分だけでなく、貧困の世代間連鎖が、こうして起きているのだという意味合いでもあるのです」
息子は大学に通っていたが、アルバイトのし過ぎで留年し、中退した。正社員雇用を望んでも派遣労働しかなく、結婚さえ望めない。娘は夫婦二人で働いているのに、子どもを持つことすらできない。いくら夫が正規雇用とはいえ、介護職は過酷で低賃金な職業だからだ。
なぜ、今、こんな社会になっているのか。なぜ働いているのに、これまで「普通」とされてきた生活を手にすることができないのか。照子さんを政治の世界へ突き進めたものは、自分のみならず、子の世代までをも飲み込む貧困の理不尽さにあった。