※本稿は、黒川祥子『シングルマザー、その後』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
転落の始まりは、憧れのJリーガーとの結婚
ほっそりとした、美しい女性だった。大野真希さん(仮名、40歳)。
今回の取材を始めるにあたり、私自身のサイト(今は閉鎖している)で、シングルマザーの方へ話を聞かせてと呼びかけたところ、連絡をくれた唯一の女性だった。その意味で真希さんは、自ら志願して、私に自分の「これまで」を伝えようと決めた女性でもあった。
取材時の真希さんは、高校2年生の息子と2人で暮らしていた。シングルマザー歴が「大体、17年ぐらい」と言うのだから、結婚期間が非常に短かったことがわかる。
真希さんは両親と姉との4人家族で育ち、実家は工務店を営んでいた。短大の英文科を卒業後、就職することもなく、キャバクラなどでのアルバイト生活を選んだ。
「就職氷河期だったから、面接で結構、落とされて……。もともとガッツもないし、必死に就活することもなく、アルバイトでいいかなって。バカだったんです。お金が入れば遊びに行ったり、洋服買ったり……。結婚して、専業主婦をやればいいって、軽く思ってました」
真希さんは何度も、「バカだった」と繰り返す。社会がこれほど不況になるとは、思いもしなかったと。世はまさに、就職氷河期、真希さんはロスジェネ世代だ。男性であっても、正規職に就くのは難しい時代だった。
そもそも正規雇用の男女比は、男性が女性の倍以上の数で推移している。女性は男性から扶養されることを前提に、低賃金の非正規労働でいいとされてきており、正規職に就くのは男性より難度が高い。
たまたま誘われた合コンで、真希さんは憧れの人と出会い、つきあうこととなった。高校時代、サッカーで全国大会出場を果たした選手で、短期間だが、Jリーグにも所属していた。高校時代からファンだったという。
合コン後、すぐに交際がスタートした。3カ月後には妊娠、そしてでき婚というスピード婚だ。真希さんは22歳、夫は23歳。夫は当時、子どものサッカーチームでコーチをしていた。
「これじゃ、全然、稼げない。なのに、深く考えず、結婚しちゃった。憧れの人だから、舞い上がったんでしょうね。本当に、バカって感じ」
真希さんはサラリと、当時の自分を突き放す。