「あなたの自己管理ができていないから……」
どうしても正社員になりたかった。だから照子さんは、正社員以上に働いた。残業が月に100時間ほどとなり、本来は正社員がする海外からの客の世話も任された。正社員が休日出勤は嫌だと言えば、代わって出勤した。
家に帰るのが24時を回り、お風呂に入って寝れば、また朝が来る。子どもたちが中高生となり、手がかからなくなっていたことも大きかったし、同居している実母もいる。
「今でも娘は、『お母さんが育ててくれたとは思わない。自分で育った』と言いますよ。娘は私より料理が手早くて、上手です」
子どもが一人で育ったと言い切るほど、働いてきた。パワハラもセクハラもあったが、正社員になりたい一心で、会社を休むことは絶対になかった。
あるとき、シュレッダーの前で身体が動かなくなった。意識を失って倒れ、救急車で運ばれた。原因は長時間労働による過労、明らかに労災だ。労災の申請は、雇用主である派遣元企業が行う。返ってきたのは、「あなたの自己管理ができてないから、そういうことになる」の一言。いくら食い下がっても、労災は申請できなかった。照子さんはこう見る。
「派遣先企業は、派遣労働者という道具を借りてくるだけなので、自分の手で修理することはしません。派遣元企業も壊れた道具を修理して、また使えるようにしようとは思わないんですよ。修理なんて面倒だから、放っておこう。これが、派遣の構図なんです」
17年間働いたのに「法改正」のためにクビになる
2015年9月30日、労働者派遣法が改正された。派遣労働者からしてみれば、3年ごとに派遣先を変えなければならないという「改悪」だった。
同年8月、照子さんは派遣労働者当事者として、参議院厚生労働委員会に登壇、改悪阻止を訴えた。
「有給をバンバン使って、国会でロビー活動をしたり、厚労省の官僚が参加する学習会などで派遣労働の実態や、法制度の矛盾、問題点などを自分の経験を通して訴えてきたので、その活動が認められての登壇でした」
「改悪」派遣法は施行され、皮肉にも照子さん自身、2017年12月での雇い止め通告を受けるのだ。58歳での雇い止めだ。何と残酷なことだろう。