メーカーは商品でしか変われない

——湖池屋の波状攻勢は、キリンビバレッジで「ファイヤ」「生茶」「アミノサプリ」と、99年から02年にかけて短期間にヒットを連発させたのと重なります。

【佐藤】メーカーは演歌歌手によくある“一発屋”であってはならない。サザンオールスターズの桑田佳祐さんやユーミンのように、ヒットを出し続けなければダメ。桑田さんの楽曲を、若い人がカラオケで唄えば、世代を超えた循環が形成されていく。

僕たちメーカーは商品でしか変われません。新商品を毎年出して、その中にヒットが生まれ、大きな定番ブランドに成長していく。やがて、定番もリニューアルして勝負する。すると、世の中での存在感が生まれていくのです。狙わないと、できないことです。

——昔の大ヒット商品だけに依存するのは、リスクを伴いますね。

【佐藤】キリンの「ラガー」、キリンビバレッジの「午後の紅茶」だけでは、やっていけなかった。商品はコモディティ化して安売り競争という消耗戦に入るのは、最悪の展開なのです。

スナック菓子を含め食品の市場はいま、多層化、複雑化しています。特にZ世代(90年代半ばから2010年代初めに生まれた世代)に対応した商品開発は、課題ではあります。

「マーケティングが販促だけのツールになったなら、明日はない」と語る佐藤章社長。
撮影=大沢尚芳
「マーケティングが販促だけのツールになったなら、明日はない」と語る佐藤章社長。

優等生的な商品は売れない

——佐藤さんはキリン時代に、「ヒットを狙うのではなくホームランを狙え。二番煎じはやるな」と話していました。

【佐藤】ヒットを打とうと考えたら、ヒットは打てません。合わせにいくと、差別化は難しくなるからです。当てにいくのではなく、スタンスを思い切り大きくとってホームランを狙うのです。理屈が正しい優等生的な商品は売れません。他社のヒットに追随しても、短期的に売れても長続きはしませんから。

——上から命じられたら、どうしていましたか。

【佐藤】拒否するか、作り込んでまったく新しいものに変えていました。

キリン時代、僕はお客様の不満を徹底的に聞き、解決策をいかに商品に投影するかを、ものづくりの基本としていました。

プロジェクトを組む際には、まずはリーダーを決める。社内の各部署、さらに外部からメンバーを集めてチームを作る。問題解決への仮説を設定し、徹底的に意見を出し合ってもらう。ただし、最終的にはリーダーに決めさせます。

リーダーにはいつも「構造を見ろ」と話していました。

ノンアルコールのビールテイスト飲料は09年にキリンが発売しますが、企画が始まったのは07年秋。僕がビバレッジからキリンビールのマーケ部長に異動した半年後でした。

僕は、日用品メーカーから転職してきた20代女性社員をリーダーに起用する。彼女は、メンバーとフラットな立場で議論を重ねる一方、警察の研究所にも取材し、「アルコール度数0.00%」という新しいカテゴリを見出し、新市場を創出します。それまでのノンアルコールビール飲料は0.5%未満のアルコールが含まれていた(酒税法上、アルコール1%未満は清涼飲料)のですが、この構造を一新させました。