日本人は「日本を愛する外国人」が大好き

2番目の理由は、ゴッホが日本と日本美術と日本人を好きだったからだ。

一般に日本人は「日本を愛してくれる外国人が好き」なのである。戦国時代のフランシスコ・ザビエル、ルイス・フロイスから幕末のシーボルト、明治時代のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)。そして現代のトム・クルーズ、レディー・ガガに至るまで、「日本はいい国」「日本人は素晴らしい」「日本の産物は最高だ」と言われると、無条件で受け入れ、崇拝してしまうところがある。

ゴッホにとって日本との出会いは浮世絵だった。カラフルな色使いと雨を描いたシーンに影響を受け、弟のテオと一緒に600点を超える浮世絵を収集している。そして、模写に励んだ。

歌川広重の浮世絵『名所江戸百景 亀戸梅屋舗』『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』、渓斎英泉の美人画『雲龍打掛の花魁』など、彼が模写した作品は今も残っている。また、『タンギー爺さん』という肖像画の背景は富士山、花魁などすべてが浮世絵だ。

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(写真=Library of Congress/PD-Japan/Wikimedia Commons

ゴッホにとって浮世絵は最高の美術作品で、日本は理想郷だった。そして、そこに暮らす日本人はつつましいけれど、知的な人たちに思えた。ヨーロッパにいる自分(ゴッホ)は不遇な人生を送っているけれど、理想郷の日本へ行きつくことができれば認めてもらえる、歓待してもらえると期待したのではないか。

「不器用で誠実」な部分に惹かれるのではないか

3番目の理由はゴッホのキャラクターだ。ゴッホは器用な画家とは言いがたい。生き方もまた器用ではなかった。そして、日本人は不器用さのなかに誠実さ、一途な気持ちを感じてしまう。そこがまたゴッホが好かれる所以ゆえんだろう。

日本の庶民は器用な天才よりも、不器用な努力家を愛してしまうのだと思われる。

日本画家の千住博氏はこう言っている。

「ゴッホは実に不器用な男で、それも相当なものでした。『自分は不器用な男ですから』と高倉健のように言っていたかは別として、本当に人類史上最もつきあいにくい男だったらしいという面白い研究結果もあるにはあるようです」(『ニューヨーク美術案内』光文社新書)